公開 2011/12/23 最終更新 2016/03/25 OpenMeeting09Saitama 2013/03/02
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研究会 DAISY/EPUB で実現するアクセシブルなデジタル教科書 第2回 2015/12/12 New!


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みんなのデジタル教科書教育研究会(デジ教研)埼玉ミーティング 講演録

DAISYとEPUBで実現するデジタル教科書のユニバーサルデザイン

大宮ソニックシティ会議室 2011年11月13日 開催 - みんなのデジタル教科書教育研究会(デジ教研) 主催

★ リンクは自由ですが、ご連絡いただけると幸いです。 degisaitama@yahoo.co.jp


0. 片山 敏郎 氏 挨拶 (みんなのデジタル教科書教育研究会発起人)

● 司会:皆様ご多忙中、沢山の方にお集まりいただきありがとうございます。みんなのデジタル教科書教育研究会、略称「デジ教研」主催で本日の研究会を進めさせていただきます。本日は新潟より、当会の発起人でいらっしゃいます片山先生においでいただきました。はじめにご挨拶と会の紹介とをお願いいたします。それでは、よろしくお願いいたします。

● 片山:皆様こんにちは、今日は日曜日のお休みのところ、このように多数お集まりいただき大変ありがとうございます。私は新潟県で小学校の教員をしております。今年1年間だけは大学院で勉強しておりまして、まだまだ若造でございます。みんなのデジタル教科書教育研究会の「みんな」の意味ですが、二つあります。一つは「みんなが使えるデジタル教科書」という意味です。どの子も使いやすい教科書を目指していこうということです。二つ目は「みんなで一緒に考えて使いやすいものを作っていく」ということです。私たちの仲間には、小学校の先生だけでなく、中学、高校の先生、大学の先生、また教員だけでなく実際にソフトを開発している方、主婦の方、出版社の方、いろいろな立場の方が参加してくれています。みんなで一緒に考えてやっていこうという、草の根の活動でございます。今日は河村先生、野村先生というDAISY(デイジー)の方面では第一人者である方から直接お話を聞かせていただく機会を、今回設定していただきました。皆様と一緒に勉強できると良いなと思って、大変楽しみにしているところです、どうぞよろしくお願いいたします。

● 司会:片山先生、ありがとうございました。


1. 河村 宏 氏 講演 (DAISYコンソーシアム会長)

■ なぜデジタル教科書か? 米国NIMASの経験から学ぶ

プレゼンテーション用スライド [PDF]

● 司会:それでは早速でございますが、はじめに河村宏さんから、プレゼンテーションをしていただきたいと存じます。よろしくお願いいたします。

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● 河村:みなさん、こんにちは。このような機会を作っていただき感謝いたします。今日、私に与えられたテーマは教科書に的を絞って、話をすることです。DAISYの場合は色々な面があるのですが、今日は教科書に的を絞るということですので、それ以外の面については、質問の時間にしていただければと思います。

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会場には、ずっと昔から存じ上げている方も何人かいらっしゃいますが、初対面の方もいらっしゃいますので、私が何者であるかということからお話しします。DAISYコンソーシアムというのは、主に図書館が団体で作っている非営利国際団体で、スイスにある法人です。この法人の元に10人くらいの専門家を雇用して、DAISYの開発をしています。その10人というのは全員がスイスにいるわけではありません。スイスにいるのは1人だけで、あとはそれ以外の国に散らばっています。まったくのバーチャル団体みたいなもので、法人格はスイスに置いてあり、年間予算2億円くらいの小さな団体です。国際的なネットワークで活動しています。私はそのDAISYコンソーシアムの会長ですが、ボランティアです。それ以外に大学の非常勤講師や、ボランティアが多いのですがNPO法人の副理事長として、これは本当に零細企業のようなNPO法人ですが、事務局をやったり、社会福祉法人のお手伝いをしたりしております。

活動テーマとしては、もちろん教科書のことも勉強させていただいていますが、他にDAISYの技術開発と、今までDAISYの手が届かなかった部分、アウトリーチと言いましょうか、新しい分野に広げるという研究開発の活動をしておりまして、ここのところは障害のある方、特に地域で孤立しがちな方々の防災に関して、知識を共有する形でどこまで迫れるのか、というようなことをやっております。その関係で精神障害の方々が互助的に活動している、「浦河べてるの家」の皆さんお付き合いいただいて、勉強をしているところです。他には、国際的にDAISYを普及するという活動で、途上国でのセミナーをやったり、あるいはそれぞれの国での拠点を作るということをしています。これが私のバックグラウンドのご紹介です。

さて最近、私が教科書に関係して、ああこのような方がいらっしゃったんだということで、非常に感動をもって出会った方、と言ってもまだ直接会ったことはなく、ブログでバーチャルに出会った方の文章を以下に引用いたします。

『きらきらと希望にあふれてスタートしたはずの学校生活。それなのに待っていたのは、「文字も覚えられないダメな子」の烙印。

受け答えがしっかりできていた分だけ違和感が大きかったこともあり、「怠けもの」「うそつき」の評価もついて回った。

文字から解放される体育や図工は大好きだった。楽しくて仕方がなかったが「自分の好きなことだけはやるのね」と言われてしまう。

オレは、どうすればよかったのか?「立派な大人になれない」と同級生に言われたオレは、「ああそうなんだ。オレはダメな大人になるんだ」と思うしかなかった。』

(成人ディスレクシアの独り言 http://sky.geocities.jp/dyslexia_tora/sub2.html

これは、「成人ディスレクシアの独り言」というブログがありまして、「とらさん」という方のものです。この方は43歳になってから自分がディスレクシアであるということが分かったということです。是非ブログを読んでいただきたいのですが、グーグルで「成人ディスレクシアの独り言」と検索すれば、すぐ出て来ると思います。大変深い中身でございます。これは日本での教科書を読めなかった、あるいは読み書きに大変苦労をしながら成人され、43歳にして始めて自分の障害に気づかれたという方の実例なのです。奥さんに手伝っていただいて長い時間をかけて、ブログに書き綴っているという文章のご紹介でした。

これに対しまして、これから読み上げるのは、日本障害者リハビリテーション協会、このあと講演される野村さんが担当している、DINF(ディンフ)というウェブがあり、そこにNIMAS(National Instructional Materials Accessibility Standard)「ナイマス」というアメリカの教科書・教材のアクセシビリティに関する基準・規格のバージョン1.0が発表されたときの報告書の文章が抄訳されていますので、引用いたします。先ほどの「成人ディスレクシアの独り言」と、是非比較しながら聞いていただきたいと思います。

『・・・教育課程の開発、採用、検証のどの段階にも障害児が含まれていることは希である。従って、ほとんどの一般教育課程には、多様な学習者の向上を支援する、研究に基づいた代替の方法、教材、評価が欠けている。一般教育課程の最も大きな欠点の1つは、柔軟性のない、印刷教材が広く使われている点である。・・・障害を持つ生徒の多くにとって、印刷技術の限界がアクセスへの障害となり、その結果、学習への障害となっている。ページ上の文字や画像が見えない生徒、本を手に持ったりページをめくったりできない生徒、文字の解読や構文の理解ができない生徒、紙に書かれた単語に集中できない生徒にとって、印刷された文字は深刻な妨げである。・・・印刷物に基づく教育課程では、これらの生徒は、実は、単に、学習にアクセスするための適切な道具と教材がないだけなのに、学習できないと誤認されているのかもしれない。』

NIMAS(全国指導教材アクセシビリティー標準規格報告書) − バージョン1.0(抄訳)
http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/access/info/nimas.html

これは基本的にはアメリカの教育省が委託して、規格の開発をさせた時の報告書で、準公的なものです。その中で印刷物の限界について、このように言っているわけです。

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そしてアメリカ連邦政府の規則集で、教材へのアクセスを規定している部分では、端的に「適切かつアクセシブルな教材へのタイミングの良いアクセスの保障」(米連邦規則集(CFR)34§300.172 教材へのアクセス)というふうに言っています。つまり授業に間に合うということですね。紙の教材を配るときに同じ様に同じタイミングで、適切かつアクセシブルな教材を提供するのだということ、そしてそれが学校あるいは教育当局の責任であるということを言っているのです。

同じように色々な形で言葉を換えて、この報告書では何故印刷教材の限界があるのかや、何故デジタル教材が必要なのかを角度を変えて述べています。もう少し先に進めますと・・・

『教師は、代替の制度やプログラムの適応、調節、開発を通して、印刷教科書がもたらした障壁を削減するために最善の努力をしなければならない。現場で作成された代替案は費用がかかり、効率が悪く、研究基盤と体系的な開発が欠如していて、障害を持つ生徒が一般教育課程に本当に組み込まれるのではなく、さらに別の道ができてしまう。これらの問題を解決し、現実的にNCLBとIDEAの優先課題を実施するためには、障害を持つ生徒にはより柔軟性のあるバージョンの教材へのアクセスが必要であり、そのアクセスは、一般の生徒が印刷教材を入手するのと同時でなければならない。』

NIMAS(全国指導教材アクセシビリティー標準規格報告書) − バージョン1.0(抄訳)
http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/access/info/nimas.html

ここでNCLB(No Child Left Behind Act of 2001)とは、「一人の子どもも落ちこぼれさせない教育」という法律で、IDEA(The Individuals with Disabilities Education Act)「障害のある個人教育法」とは、一人一人の障害のある個人に同等の教育を確保するための法律です。非常に明確に、障害のある子どもが同等の教育機会を得るためには、印刷教材ではない別の形式、代替教材といっていますが、点字であったり、録音であったり、DAISYであったり、あるいはテキストファイルであったりが、非常に柔軟に他の生徒が印刷教材を入手するのと同時に提供されなければいけないと、連邦法で述べているのですね。ここのところが非常に重要です。さらに続けます。

『現代のデジタルデータは印刷物と同じ内容を提示することができるが、使われる媒体は柔軟性が高く、アクセスしやすい。言葉や画像を見ることのできない生徒向けには、画像のテキスト説明を伴った点字や音声への変換がもっと簡単にできるようになる。本を手に持ったりページをめくったりできない生徒向けには、デジタル本の仮想ページなら、スイッチを軽く押すだけでめくることができる。文字が解読できない生徒向けには、どんな単語も自動的に読み上げられる。語彙の基礎知識が不足している生徒向けには、クリックするだけで定義(英語または他の言語で)が提示される。アクセシビリティー以外に、デジタルテキストには構文、意味、理解の補助情報も埋め込むことができる。』

NIMAS(全国指導教材アクセシビリティー標準規格報告書) − バージョン1.0(抄訳)
http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/access/info/nimas.html

これは、いわゆる「ナビゲーション」などというものを、最後の部分で言っていると思います。目次を使ったり、「ここは見出しだよ」と教えてくれる、普通のテキストファイルではできないことも、情報を埋め込むことができる。これはDAISYのことを言っているわけです。

『デジタル版の長所は、これらの代替バージョンやその他の多くのバージョンが個人単位で入手できる点である。必要としている生徒は入手でき、必要としていない生徒には見えないか、邪魔にならない。デジタル版によって、教師は、それ以前には想像できなかった方法で個人の事情に合わせて教材を用意できる。このように、個々の生徒に合わせて変更できる代替バージョンによって、これまでの教科書に見られた障壁を大幅に削減することが可能になった。このように教室でデジタル教材を使用することには利益があることが、たくさんの調査結果に示されている。』

NIMAS(全国指導教材アクセシビリティー標準規格報告書) − バージョン1.0(抄訳)
http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/access/info/nimas.html

そして、1995年から2001年までのいろいろな調査結果の引用が後に続いています。それでこの規格自体は2002年から開発に取り組まれたものです。非常にコンパクトに、「何故、紙ではダメでデジタル教材なのか」という連邦政府の取組を、端的に表していると思いますので、もうちょっと引用を続けさせてください。

『全ての生徒のための新たなアクセシビリティーを求めた結果、アクセシブルなコアカリキュラム教材を入手できることが州および地方の教育機関にとって極めて重要なものになった。全ての生徒、特に印刷物の読みに障害のある生徒が、アクセシブルで、柔軟で、生徒に合わせて変更できる教材を幅広く入手できるようにならない限り、一般教育課程における障害を持つ生徒の確実なアクセス、参加、進歩は実現しないだろう。いくつかの理由から、現在、障害を持つ生徒の中に、自分が必要としている高度に機能的でアクセシブルな図書にアクセスできる者はほとんどいない。認識不足の問題もある。アクセス問題や、利用できる解決案を知らない教育者は多い。しかし、大多数の生徒にとっては、アクセスの欠如は主として、印刷教科書のアクセシブルなバージョンの開発および配布のための統一システムがないことが原因である。システムがないと、タイミング良い納品ができない。』

『既存の開発および配布システムは、機会を生み出すどころか、障壁を生ずる非効率的な方針および手順に依存している。これらの障壁が、システムの全てのレベルにおいて、成功を妨げている。出版社は通常、障害を持つ生徒全員が使用する、印刷教材の完全にアクセシブルなデジタル版の製作および配布は行なっていない。多くの州の法律では、読みに障害のある生徒向けに点字などのアクセシブルなバージョンに変換するために、教材のデジタル版を第三者に提供することが出版社に義務づけられているが、出版社は現行の規制および技術の要求事項に基づいた非効率性の問題に直面している。行政上の手順が不明瞭なことと、州レベルの一般に通用するファイル形式がないことが、出版社が法を遵守しようとする努力の妨げとなっている。世の中一般に通用するファイル形式なしには、出版社が法を遵守するのは難しい。それはそれぞれの州、障害者組織、教師、生徒が皆、異なるバージョンとファイル形式を要求していからである。さらに、現在のシステムでは、デジタル版をアクセシブルなバージョンに変換する作業の重複が増え、これらの教材の入手のために州の費用が増加し、アクセシブルな形式の受領に不必要な遅延が生じている。』

NIMAS(全国指導教材アクセシビリティー標準規格報告書) − バージョン1.0(抄訳)
http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/access/info/nimas.html

これをよく読んでいきますと、今の日本よりも問題意識としては、少なくとも同等の質の教育をするために、アクセシブルな教科書を提供しなければいけないのだというふうに、教育を行う学校、教育当局が責任と義務とを持っているのだというところでは、一歩前進している。ただ、それを実際に実行しようと思うとこれだけ難しいことがある。つまりファイル形式というものがバラバラだと、やりたくてもできないのだということをずっとここで記述しているわけです。そこでファイル形式だとかバージョンとかいっているものをどうするのかという課題が浮かび上がっているわけです。

『明確で一貫性のあるファイルフォーマットを一つつ作成すれば、出版社は、質の高いデジタル版の印刷教材を、変換と配布を行う全ての認可機関に迅速に、同時に届けることができるようになるだろう。認可機関は、これらのデータをアクセシブルなバージョン(アクセシブルなデジタル版および点字印刷など)に効率的に変換し、迅速に学校や学区に届けることができるようになるだろう。』

NIMAS(全国指導教材アクセシビリティー標準規格報告書) − バージョン1.0(抄訳)
http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/access/info/nimas.html

ここで、やろうと思ったときにファイルフォーマットを統一しないとうまくいかないのだ、それではファイルフォーマット統一していけば、うまく行くのではないかということを提起しているのです。その時に、アメリカのCAST(the Center for Applied Special Technology)という団体が調査研究の委託を受けて、今どのようなファイルフォーマットがあるのかを調べました。DAISYは今では世界に広がっていますが、その頃にはすでに日本ではすべての点字図書館に導入されていましたし、また北欧を中心にして使われていたわけです。それでDAISYに注目をして、さきほど読み上げました「明確に一貫性のあるファイルフォーマットを一つ作成すればよい」、というときのベースにDAISYはどうであろうという検討を始めたわけです。結論としてはDAISYをベースにするということで、このプレゼンの表題にも「NIMASの経験に学ぶ」とありますが。アメリカではNIMASというものを制定しました。

それでNIMASとDAISYとの関係はどうなっているのかというと、NIMASはDAISYを参照しております。そして専門的にはDAISYのサブセット、つまりDAISYの本質的なところを抜き出して、NIMASという標準を作りました。そしてNIMASで作られたアメリカのアクセシブルな教科書の標準フォーマットは、DAISYを参照してますから、DAISYが改訂されれば自動的に改訂されるという仕組みにしております。何故そのようにするかというと、実はファイルフォーマットのような複雑なものを維持するのは大変なのです。ものすごい労力がかかります。先ほど申しました、スイスに国際法人を設けて世界中に10人の専門家を雇って日夜やっていると事は、まさにそのファイルフォーマットを開発し維持することなのです。どんどん技術は進歩します。その進歩した技術に見合った形でメンテナンスと呼んでいますが、そのファイルフォーマットを改訂していかないと、ちょっと時間がたつと古びてしまうのです。

具体的に言いますと、5年前にはiPadやiPhoneはなかったのです。そのiPadやiPhoneに、これはいいなという機能が沢山あるわけです。そういう機能を取り入れていかないと、「えっ、こんなのできないの?じゃそれができる別のものがいいや」となってしまうのですね。本当に便利なものであり、アクセシビリティを高めるものであれば、取り入れないといけないですね。今まで満たせなかったニーズが、その機能ではじめて満たせるようになった。それがあるグループの障害を持つ人たちにとってはとても大事な機能なのだ、今までできなかったことができるようになった。そうするとアクセシビリティを確保するということは、今までできなかったけれど今度はできるようになった技術をちゃんと生かして、それまで待たせていたグループの人たちに、「今度はこれができるようになりました」と示す、提供するということが必要なのです。

具体的に言いますと最近のDAISYの改訂では、スウェーデン教育省からの要請ですが、スウェーデンでは教科書の点字版を提供しなければいけないという国の責任がある。それまでは手作りでやっていて、いろいろ作ってきたがものすごく手間がかかってうまくいかない。何か標準的な基準が欲しい。DAISYはいろいろな面ですごく良いのだが、手話のような動画でも音声と同じように、今どこを読んでいるのか分かる。あるいは手話を見ていてそれがテキストだとどこに相当するのか、そういうことができる機能が欲しいという要望がありました。

DAISYの技術グループでは、その要望を受け入れるにはいくつか準備が必要だと考え、その準備作業に実は4年間費やしました。それはDAISYの場合は標準を作る場合に、すでにある標準を使って自分たちの標準を作るというやり方をとっています。例えで言いますと自動車を作る時に、タイヤのサイズであるとかネジとかのパーツを、一台一台特注で作っていったら大変なことになる。すでにネジのサイズ規格が決まっていれば、その中のどれか一番合うサイズを選べばよい。すでにある規格の中で選ぶ。そうして組み立てていくとコスト的にも安いし、いろいろな国で作ったパーツを調達できる。全部特注で作ると最初はいいけれども、後で故障を直したい、補修部品が欲しいとき、ずっと特注を続けないといけない。それはものすごく高くつくし、大変な労力になる。ですからできるだけ機能を落とさない限り、すでにある標準を使う。その上に自分たちの必要な機能を組み立てる。それが優れた工業製品を作るやり方。特注であることを競う場合は別ですけれど、皆さんが普通に使う製品の場合には、標準を使うやり方が当たり前のことになっています。

実はITの世界でも同じなのです。パーツをできるだけ標準的な技術で揃えて、その上に機能を実現していく。しかし、先ほどのスウェーデン教育省から要望を満たすための標準技術がなかったのですね。その標準技術をまずパーツとして作って、そして世の中でそのパーツを認めてもらってその上で、そのパーツを組み込んでDAISYの次のバージョンにするという作業になりました。そのパーツとはSMILという技術です。専門的には、Synchronized Multimedia Integration Languageですね。マルチメディアを同期させて統合する言語というものです。それをバージョンアップして動画とテキストをシンクロさせるというパーツを作るのに4年かけました。それができ上がってからDAISYの最新版の改訂に着手したということです。そのDAISYの最新版も、もうすぐバージョン4というのができ上がるという段階になっています。

こういうふうに、何か基準を作ろう標準を作ろうという時に一番賢いやり方は、すでにあるみんなが使っている標準を集めてきて自分たちの機能を満たす。それをやっていくと非常にコストが安く、安定した技術というものが作れるわけです。少なくともDAISYはそういうふうにやってきましたし、アメリカのNIMASもそれを踏襲しました。ですからDAISYがバージョンアップするとNIMASも自動的にバージョンアップする。という関係にありましてそれの一番端的な例が、NIMASが最初にアメリカで規格化された時は、まだ数式を合成音声エンジンが読めるような形式というものはできていなかったのです。数式が出てきたときはそれは「絵」となっていて、音声読み上げ、自動読み上げでは読み上げられないものだった。その後、DAISYは頑張ってMathML(マスML)という数式を表記する技術に対応して、バージョンアップしたのです。そのとたんにNIMASの方にもその成果が自動的に転がり込んだという、うまい具合になったのです。さらにDAISYの4になり今度は手話もできるようになります。NIMASも居ながらにしてDAISYを参照しているおかげで、自分たちはあまり労力をかけないで手話への対応もできるようになる、というふうな関係にあります。そういう意味で先ほどいろいろな苦労をした上で「明確で一貫性のあるファイルフォーマットを一つ作成すれば、出版社は質の高いデジタル版の印刷教材を云々」と、目標を立ててDAISYをNIMASのベースに採用したわけですが、それが今実っているところだと思います。

アメリカ連邦政府はこのように非常にうまい選択をしたわけですが、同時に大変な投資もしてDAISYを支える努力をしています。それは今「ダイヤグラムプロジェクト」というのがありまして、「絵」をどういうふうにアクセシブルに記述するのかということの、いろいろなモデルを開発しています。それを完全にDAISYの技術の一環として、世界中で無償で共有できるようにしています。DAISYはもともと無償で誰でも使える技術なのですが、そこに付け加えて、これは何億円も投入するのですが、その成果もDAISYに付け加えて資産として増やしていくという貢献をしています。ですからそこはお互いに、Win−Winの関係になっているわけですね。そういう意味で私は、NIMASとDAISYとは切っても切れない関係にあるということを、申し上げておきたいと思います。

ずっといろいろな問題について悩みながらも、アメリカでは最終的にはファイルフォーマットを統一するのだということで打開を図ろうとしている。それで、それまで教育において紙の教材、教科書であるが故に教育機会に十分アクセスできなかった子ども達に、機会を保障するのだという、そのためのファイルフォーマットがNIMAS、あるいはDAISYという形で選択され開発されているのだ、ということを申し上げておきたいと思います。

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DAISYは世界中、本当に文字通りすべての大陸に広がっています。私は一昨日ブラジルから十日ほどいて帰ってきたのですが、びっくりしたことは、いわゆるクラウドにファイルをアップロードするとDAISYに変換されてダウンロードできる、というシステムがブラジルで作られていたことです。ブラジルはポルトガル語で、周りのラテンアメリカ諸国はスペイン語ですね。ブラジルで作ったクラウド上のシステムを使って、コロンビアの団体が使ってDAISY製作をやっている。コロンビアの人たちはスペイン語で製作システムを使っています。そのシステムには音声合成エンジンの高性能のものが置いてあって、人間が読む代わりにテキストに音声が自動的に付いて、読み上げの付いたDAISY教材ができるというシステムになっておりました。

ブラジルの場合は、今4000タイトルぐらいあると言われていました。最初のころは音声だけのDAISYでしたが、テキストがあり同時にそこに合成音声が付いたDAISYになってきております。これは点字でも読むことができる。一つのマスターファイルによって点字も出せるし、あるいは普通の教科書と同じような見た目のしかも読み上げが出来たり、拡大ができたり、さらにカラーコントラストを変えたり、スイッチを使って読むことができたり、さまざまな障害のある子ども達が、授業をきちんと受けるのに必要ないろいろな機能を満たすことができる、DAISY教科書、教材が中心に作られているということです。

アメリカでは教科書、教材は今どういう状態にあるかというと、約26,000種類すでにできていてほぼ全ての教科書がデータベースに格納されていて、授業に必要であればそれをダウンロードする、あるいはそれを加工して提供する団体がありますので、そういった団体がダウンロードして、それを生かしてエンドユーザーに提供するというサービスができています。

オランダも含めて北欧では、義務教育の教科書というのはDAISYでほぼカバーしている。高等教育については、多くのところでは国が費用を出して国立図書館や福祉団体がカバーしてやっているということです。インド、タイなどでもDAISYの教科書、教材の製作というのは活発に行われています。日本の状況については、後で野村さんからお話しいただけると思います。

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世界で一番早くDAISY録音図書を導入した国というのは、実は日本なのです。これは1998年から2000年の間に、厚生省の補正予算によって全国の点字図書館に導入をいたしました。世界で一番DAISYの導入が早かったのです。しかし、さらにそれを広げていくというところが、著作権法の不備がありましてその後10年くらい、諸外国と比べて狭い範囲でしかDAISYの活用ができなかった。それゆえに教科書へのDAISYの導入も、やはり全体として遅れてしまったと言えます。

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電子書籍が日本でも、まぁ何回も「電子書籍元年」などと言われていますが、今いよいよアマゾンが日本でも電子書籍を売るのだとか、グーグルがどうするとか、そういうことが話題になっています。特にキンドルがどういうふうに日本に上陸するのか、ということで大きく日本の電子書籍のマーケットが変わるのではないか、という期待と不安が入り交じったことになっております。

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今EPUB(イーパブ)という新しい電子書籍の規格、これは国際的に欧米などで採用されている規格で、やっとそれの日本語版が昨年来から完成いたしました。この日本語版では教科書にとって必須の、縦書きとルビをサポートします。それでこれからは教科書もEPUBで普通に出版社も出すことがやろうと思えばできる。そういう技術的規格ができました。今まではそれができなかったのですね。ですからこれからは標準規格で、縦書きもルビもやれるようになったのですから、教科書もこれからはアクセシブルにできるのではないか。EPUBは中でDAISYと同じ技術を使っているので、アクセシブルな教科書を作りうる技術であります。

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DAISYの場合にはXMLという技術をベースにこれまで開発してきました、最新版のDAISYの4においては、ご存じの方もいらっしゃると思いますが、HTMLの5とXMLを組み合わせたものになっております。XMLの長所を生かし、さらにHTMLの利便性も生かしたものになります。アクセシビリティとしましては、数式を自動的に読み上げるということもできますし、ナビゲーション、読みたいところを簡単に出す、そう言った機能も持っています。テキストを合成音声で読むこともできるし、あるいは人間の肉声で読み上げることもできる。両方できます。

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この肉声で読み上げることができるのはとても大事で、教科書の場合にはどうしても自動的に読み上げさせると、間違えることが多いのですね。間違って読んでしまうのでは、教科書の役割が果たせませんので、きちんと正確に読んで欲しいものについては、人間が正確に読み上げる。そう言った音声を読み上げとして使える。そして今読み上げている部分が、後で野村さんから実演してもらえると思いますが、ハイライト表示されて、そこに集中できるという効果もあります。文字の拡大、色の反転が極めて容易ですし、読み上げのスピードも速くしたり遅くしたり自由自在にできる。

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EPUBとDAISYはそれぞれ改訂作業する時に協同でしましたので、DAISY4の技術で配布するDAISY図書というのは、EPUBという形式をとります。ですからこれから皆さんが電子書籍を購入する際には、形式でXMDFとかいろいろな形式の中に、EPUBというのがあると思います。EPUBであればDAISYのアクセシビリティの技術を生かして、そのまま障害のある方も読むことができるという、チャンスが大きいと考えておいていただきたいと思います。

普通に市販される電子書籍ではあまりDAISYとは言わないで、EPUBと言っている場合がこれからは増えて行くだろうと思います。それはですね、DAISYの場合は沢山のファイルをそのままフォルダに納めて提供するということが多かったのですが、EPUBの場合はZIPファイルになっています。圧縮してまとめて一つのファイルにしている。見た目一つのファイルになっていて取り扱いがしやすいので、配布するときの形としてはEPUBというものをDAISYの場合でも使うことがあります。ですからこれからはほぼDAISYとEPUBとは同じもの、と考えていただいていいと思います。ただ製作するときにはDAISYとして製作するツールを選んでいただくと、EPUBでも出せるしあるいは点字でも出せるということになると思います。

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そして一つ覚えておいていただきたいのは、DAISYパイプラインというツールで、これは変換ツールでして、これからはこれがとても大事な役割を果たします。図示いたしますと。DAISYの4というのがいわゆるソースファイル。製作するときに作るソースファイルというものになります。そしてパイプラインというコンバーターを通しまして、EPUB3、これは最新のものです。ビデオまで入るものと、音声だけのものと、テキストだけのものと、あるいはテキストと音声と画像、そういった4つほどの形式がございます。

DAISYの4のソースファイルからは、印刷する普通の図書も出すことができるというソースもありますし、拡大図書も出せますし、点字、点図もDAISY4のソースから出すことができます。そういう一つのソースファイルから、さまざまなニーズを満たすマスターファイルがDAISY4というものになるという関係です。

簡単に結論的にまとめますと、これまで私が係わって日本の教科書を使って日本で、日本語の教材を使う実証実験等の結論としては、次のようなことをまとめとして申し上げたいと思います。これは配付資料の後半にある、文部科学省の研究の報告書にあるものと同じなのですが、まとめますと。

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DAISY版の電子教科書は、教科書と同様のレイアウトでテキストと画像を提示し、目次やページあるいは段落によるナビゲーションが可能で、必要に応じて、読み上げの有無および速度、文字の大きさやフォントの種類、カラーコントラスト等を調整することができる。このDAISY版教科書を、読むことに障害のある児童生徒に提供する実証実験を行った結果、学習意欲の向上等の効果が見られた。特に試験問題をDAISY化して提供した結果は顕著で、通常の紙のテストでは全く回答できない生徒が独力で問題に取り組み、学習の到達度を示すことができた。EPUB3としてこれから発行される電子書籍は、このDAISY図書の優れた機能を備えることができるので、DAISY方式もしくはEPUB3方式の電子教科書の出版を強く推奨する。

EPUB3は日本時間で言いますと、10月12日に公式にリリースされました。この配付資料のまとめは3月現在ですので、すでにEPUB3は公式リリースされましたので、是非これからは教科書はEPUB3で出版していただくと、先程来の米国でさまざま苦労して最後に一つのファイルフォーマットにたどり着いた、その成果を一挙に日本では実現できるチャンスがあると考えます。以上です。ご静聴ありがとうございました(会場拍手)。


2. 質疑応答

● 司会:それでは河村さんの発表に関してご質問がございましたら、よろしくお願いいたします。

● 質問 1 (要旨):MacユーザーでDAISYパイプラインを利用し、iPhone用のDAISYリーダーであるVOD(Voice of DAISY)用のDAISY図書を作成している。日本語では、TTS(合成音声 Text to Speech)をうまく認識してくれないようだ。Windows用や英語版では使えるという話を聞いているのだが。

● 回答 1 河村:お使いのものはパイプライン1ですか、最新はパイプライン2で、最近リリースされました。VODの場合は今のところ対応しているのはDAISY2.02までですよね。ですからソースファイルを、パイプライン2を使いますとDAISY2.02にダウンコンバートできるので、これはDAISY3からできると思います。私自身はパイプライン1では試していないので・・・とりあえずパイプライン2を使ってみてください。それでパイプライン2のオプションでうまくいかない場合は、メールで私宛に、どこに引っ掛かったのかを伝えていただければ、フランスにいる開発者につなげます。割と几帳面な人なので、割とすぐに答えてくれると思います。

● 質問 2 (要旨):DAISYの技術は行政などの広報の情報提供にも有効だと思うが、海外等での実例はどうなっているか。

● 回答 2 河村:音声だけのDAISYで広報を作るというのは、日本各地にあります。以前はカセットテープ録音でやっていた「声の便り」などというものが、今ではDAISY化されているというものでずいぶんあると思います。しかし本当の醍醐味というのは、もともとそれらの広報というのはテキストファイルを持っていますし、構造も持っていますよね。目次付きのものです。長いものになったら、目次がないととても読んでいられないので、見出しからすぐにぱっと読めるようなものを、自動変換してできないのかと思いますよね。

インデザインのCS5や5.5では、EPUBにできると言っているのですが、どのくらいできるのかについては完成度の問題もありますが、少なくともEPUBにできるとすればそこにEPUBからさらに人間の肉声をシンクロして固有名詞なども読み間違えのない広報を作るというのは、非常に簡単にできるはずなんですね。

ですから一回EPUBにしてしまうと、それをソースファイルにしてさらに加工して、アクセシビリティの高い正確な広報を簡単に作れるチャンスがありますので、そういう形でワークフローをやはり行政がきちんとしないとダメなのですが、いくつかタグを付ける必要がありますので。もともとワープロで文章を、原稿を作るときに、「見出し」をきちんと付ける、というようなワークフローを確立しておけば、行政文書を自動変換してアクセシブルに提供することが早くできると思います。

諸外国などの例で一番分かりやすいのは、WHO(World Health Organization)の出している、World report on disability という世界の障害者に関する報告書で、グーグルで検索してもらえばすぐかかると思いますが、これの電子ファイルをDAISYとPDFと、絵が付いた文章をコンパクトにした分かりやすいバーション、という3つで出しているのですね。これがいい例で、公式の文書が全部で300ページくらいあるレポートですが、最初から考えて出版すればすぐDAISY版を作れるという見本になっています。

同じようにいくつかの国際機関では、同様のワークフローを確立しようということで、DAISYコンソーシアムに協力を求めてきていますので、まずはそういった国際機関などが見本を示していくことで、できるようになるかなと思っています。

行政レベルでどうなっているかは掴んでいないのですが、おそらくアメリカなど差別禁止法のあるところでは、公的な情報にアクセスできないというのは差別に当たりますので、何らかの形でもうすぐEPUBで出すような動きというは、一般化するだろうと思います。

● 司会:まだご質問があるかと存じますが、ここで一旦休憩をいただきまして、残りはまた後の時間でよろしくお願いいたします。


3. 野村 美佐子 氏 講演 (日本障害者リハビリテーション協会情報センター長)

■ DAISY教科書の取り組みと課題

プレゼンテーション用スライド [PDF]

● 司会:それでは引き続き、野村美佐子さんより、プレゼンテーションをしていただきます。よろしくお願いいたします。

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● 野村:みなさんこんにちは。日本障害者リハビリテーション協会情報センター長の野村と申します。河村さんのお話の後を受けまして、私は日本での「DAISY教科書の取り組みと課題」ということで話をしたいと思っております。

私が、日本障害者リハビリテーション協会に入りましたのは1998年10月で、その前はKDDIの前身のKDDに勤めており、日本赤十字社の語学奉仕団に在籍しておりました。その関係から障害者の方と関わるようになって来まして、また河村さんとの出会いがあり、リハビリテーション協会の情報センターに入ることになりました。

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情報センターでは、いろいろな事業をやってきましたが、その中の一つに、DAISY普及がございました。1998年というのは、点字図書館の関係の方はご存じかと思いますけれども、やっとDAISYの導入をするということで、いろいろな関係団体の方、今会場にもにいらっしゃいます企業の「シナノケンシ」の方、そういう方々との関わりをもって、日本における最初のDAISY導入が始まりました。そのイニシアチブを取ったのは、当時情報センター長であります河村宏さんでした。

1996年に、DAISYコンソーシアムが設立されました。その設立者の一人として、河村さんは関わっておられ、国の予算の中で導入を始めました。そして点字図書館のDAISY図書普及の基礎となっていたのではないかと思います。とはいえ、全ての視覚障害者の方に手渡っていったとは言えません。今でも視覚障害者の方で、DAISYをご存じない方も結構ございます。しかし、視覚障害者のためのDAISY図書がベースとなって、普及が始まったということは申し上げたいと思います。

そしてそのときに、大活字印刷冊子の録音図書リストを、全部で5万8000部作りました。そして学校とか点字図書館などに、「こういうものを作りましたので、是非使ってください」とお知らせしました。そして、その頃にはすでにディスレクシアや学習障害の方も対象者として頭に置き、学校図書館、公共図書館にも、配布いたしました。ただ、10何年前ですからDAISYはほとんどの方がご存じなかったのではないでしょうか。その後、視覚障害者のためのDAISY図書は点字図書館にお任せすることにし、2001年からは、どちらかというと学習障害者をターゲットにした普及活動を始めたのです。これは世界で始めてではなかったかと思います。当時は、世界を含めてまず音声DAISYを普及しようという時代でしたから。

DAISYには3種類ございます。会場の方の中で、DAISYは今日が初めてという方、いらっしゃいますか?お手を上げてください。そうですね、いらっしゃいますね。いろいろな形式のDAISY図書があります。点字図書館で使われているのが音声DAISYというもので、画面の左側にナビゲーションと呼ばれる目次があり、本文にはテキストはなくて音声のみです。これが音声DAISYです。

それから、テキストDAISYです。最近は合成音声とともに良く聞かれるようになりましたが、これは単なるテキストではなく構造化されたテキストなのです。構造化されたテキストとは、例えば、エクスプローラを立ち上げると、フォルダがあり、その中にまたフォルダがあり、またその中にフォルダがあるというような、つまり「レベル」のことです、このレベル付けがされたテキストファイル、それが構造化されたテキストです。これを、音声合成エンジンと一緒に使いますと、テキストと音声がシンクロしてテキストDAISYとなるのですが、最初に作成したのは構造化されたテキストのみ、というふうに考えていただければと思います。

そして最後に、私どもが重点的に普及しております、マルチメディアDAISYです。テキスト、音声、そして必要に応じて、画像を付けることもできます。このマルチメディアDAISYを使用して、認知・知的障害者を対象としたマルチメディアDAISYの研究をさせていただいています。それに関連する情報収集をし、ウェブサイトを通じて提供しています。さきほど河村さんからも何度か出ていた、DINF(Disability INFormation resources)に翻訳ものが多いのですが掲載してきました。

先ほど河村さんが触れていた、NIMASの翻訳をさせていただきましたが、なかなか言葉というものは、初めての場合は、どのように訳したらいいか困るのですね。例えば「プリントディスアビリティー」(Print Disability)という言葉です。人によっては「プリント障害」と言ったりしています。私どもでは、「印刷文字を読めない障害」ということ、それから「手が使えないから本を読めない」、つまり、紙に書かれた、印刷されたものが読めない障害を、「プリントディスアビリティー」と訳しております。これについてはいろいろな人が、いろいろなことを言っているので、最初に定義をしないでおくと、これはいったい何の話なのかとなってしまいます。

「プリントディスアビリティー」を「活字障害」と言ったのは文化庁さんですね。それで「活字障害」とは何ですかと聞かれたらしくて、文化庁から厚生労働省に問い合わせがあり、厚生労働省からはは私の方に問い合わせてきました。WIPO(世界知的所有権機関)というのは、先ほどの話では出てきましたでしょうか。著作権問題で現在WIPOでも取り組んでいるように、正当に作られたアクセシブルなマテリアルやアーツなど、つまり資料や作品などを共有できるようにするという動きがあります。WBU(World Blind Union)やDAISYコンソーシアムが中心となってWIPOにそのための働きかけも行っております。そこでは、対象者は、 print disability and other reading disability となっているのですね。「プリントディスアビリティー」だけではなく、「他の読みの障害」も含めています。「他の読みの障害」とは、どのような人をいっているのでしょうか。

多分それが文化庁の「活字障害」という言葉をどう訳すかという悩みになり、私どもに聞いてきたのではないかと思います。そこでWIPO関係者に話を聞いてみると、要するに「プリントディスアビリティー」の範囲をもっと広げます、ということが示唆されているそうです。最近はいろいろなメディアがありますよね。それらのメディアへのアクセスに障害があると、「プリントディスアビリティー」というのでしょうか、これは「情報障害」ではないかとなりますので、広い意味で「リーディングディスアビリティ」(reading disability)という言葉を使用したように思われます。このあたりの翻訳というのは、本当に難しいなと思います。

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サンプルのマルチメディアDAISY図書を、皆さんの目にできるだけ触れていただこうという目的で、特殊教育学会など様々なところで展示をしております。皆様に配布されているDAISYのパンフレットにもありますが、別にコマーシャルではありませんが、普及するうえで、「どのようなコンテンツがあるのか」という問い合わせに対し、DAISY図書のサンプル配布をすることにしました。

助成金をいただいていましたので最初は無料配布でしたが、無料ですと実はいろいろ弊害もありまして、例えば入手されてもすぐには見ないで、しばらくしてから再生ソフトのAMIS(アミ)のインストールでつまずいてしまったとか、一年間そのままにしていたとか、二年経ってやっとマルチメディアDAISY図書が読めましたとかいうことなどがございました。

お金を少しでもお支払いいただくことで興味を持っていただいたり、また私どもの普及活動に貢献していただければと思い、このようなマルチメディアDAISY図書の申込書というものも、配布させていただきました。それからマルチメディアDAISY図書再生ソフトのAMISがあります。AMISというのはフランス語では「友達」という意味ですが、Adaptive Multimedia Information System の頭文字を取っています。無料の再生ソフトです。

マルチメディアDAISY図書の製作ソフト、Sigtuna DAR3(シグツナDAR3)、視覚障害者向けの音声のみのDAISY録音図書製作ソフトの、マイ・スタジオピーシー(MyStudio PC)などは、ライセンス申請していただいて一定の条件で配布しています。マルチメディアDAISY図書製作のための研修会も来週予定されておりまして、20人ほどの方が参加いただくことになっています。このように補っていかないと普及は進まないと思っております。皆様には、普及にむけたDAISYの理解と、普及への参加をお願いしたいなと思います。

2008年9月から、いわゆるDAISY教科書の提供プロジェクトを開始いたしました。このきっかけには、著作権法第33条の2の改正がありました。これはいわゆる「教科書バリアフリー法」施行に伴って改正されたもので、これをきっかけに小中学校の「読みに困難のある児童生徒」に提供するようになったわけです。このような経緯については、すでに色々なところでお話ししておりまして、私どものウェブのDINFにも載せてございますので、詳しくはそちらを読んでいただきたいと思います。そして2010年には日本デイジーコンソーシアム事務局を日本障害者リハビリテーション協会で引き受けております。

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マルチメデイアDAISY教科書については、皆様まだ初めてという方があるかなと思いますので、見ていただこうと思います。このスライドの上部にある「ごんぎつね」の画面は、通常のテキストと音声がシンクロしているところをキャプチャしたものです。下の方はコントラストという機能を使ってブルーの背景に、白い文字で黄色いハイライト部分の文字は黒となって音声とシンクロして読み上げている場面を、キャプチャしたものです。

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マルチメディアDAISY教科書というのは、テキスト、音声、画像が同時に表示でき、ナビゲーションの機能、つまり画面左側に、「 1, 2, 3, . . . 」という目次がございます。それをナビゲーションと言っております。それから読みあげるテキストのハイライト表示、つまりこの画面で黄色く反転している部分。そしてルビですが、実は、DAISY2.02での仕様ではルビはサポートされていないので、拡張して無理矢理作っています。しかし、今後EPUB3やDAISY4になると縦書きやルビがサポートされるのでかなり作りやすくなると思います。また再生スタイルの変更が可能で、フォント、コントラスト、読み上げスピードの変更などができます。

読み上げ速度の変更は多くの児童生徒の希望でしたが、かなえられました。視覚障害者の場合は200%増しぐらいの速度で聞き取るのですが、知的障害の方はゆっくり読み上げることで聞き取れ、理解できます。それからブックマークも付けられます。それぞれの人のニーズによる希望が、再生ソフトによってかなえられることになります。

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AMISというソフトでは色々なニーズを満たすことはできるのですが、画像の拡大などは有償ソフトですることになります。ドルフィン社が出している、「イージーリーダー(EasyReader)」というソフトがあります。これを使って先ほどのコンテンツを再生してみますと、 < ・・・ 読み上げている ・・・ > このように弱視の方には見やすくなっています。 < ・・・ 読み上げている ・・・ > このように画像をかなり拡大することが可能になります。

同じくドルフィン社から出ている、イージーリーダー・イクスプレス(Easy Reader Express)というのがありまして、これは最初からコンテンツにイクスプレスを同梱し、CD−ROMやダウンロードで提供ができます。この場合は、わざわざAMISをインストールしなくても利用でき、使い勝手が良いのかなと思います。

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以上のようなことをご紹介したウェブサイトで、私どもが運営している、ディンフ(DINF)というサイトをお見せしたいと思います。ここからDAISYに関する情報が得られます。私どもが行ったさまざまな講演会など。先ほど河村さんからお話のあった、World Report on Disabilities、「障害に関する世界報告」に関する概要の翻訳が載っています。Enjoy DAISY(エンジョイデイジー)というページもありますので、DAISYをどなたかに紹介する場合はここの情報を使っていたただければと思います。

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ここの中にマルチメディアDAISY教科書の詳細がございます。現在13団体の製作ボランティアに協力していただいています。ここには「マルチメデイアDAISY教科書とはどんなもの?」というコーナーもございます。サンプルとして「ごんぎつね」をダウンロードすることができます。YouTubeの動画も置いてありますので、ビデオも見てください。「ごんぎつね」を再生してみます < ・・・ DAISY教科書を読み上げている ・・・ > 。実物を見てみたいという人には、「マルチメディアDAISY版教科書」のサイトをご紹介いただければと思います。DAISY教科書製作のためのガイドラインも載せてあります。どういったCSSを使うとか、レイアウトをどうするかといったことがお分かりいただけるかなと思います。

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平成23年度のDAISY教科書の提供に関しては、現在、DAISY教科書がどのくらい製作されたかといいますと、160冊(タイトル)くらい作っております。平成23年度のDAISY教科書の提供数が、11月2日現在では881人のユーザーがいます。さらに県ごとの利用者の数が示されています。

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次のスライドは提供活動についてまとめたものです。2008年9月施行の「障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律」と、著作権法第33条の2改正によって、DAISY教科書提供事業が始まったわけです。最初はCD−ROMでの提供でした。それから2010年1月に、もう一つ著作権法の改正、第37条の改正がありました。この法律により、視覚障害者以外の障害、発達障害などがある人のニーズに合わせた形式でのマルチメディアDAISY図書等を複製、自動公衆送信が可能となりました。ただし指定を受けたところだけができるのです。公共図書館、学校図書館、福祉関係事業所、日本点字図書館などが指定を受けているのですけれど、私どもの障害者リハビリテーション協会は指定に入っていませんでした。この法律によりCD−ROMではなくてインターネットでの配信ができるようになると思ったのですが、実はこのようなハードルがございました。

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その後、政令指定となるための申請を行いまして、4ヶ月後の2010年4月に著作権法第37条3項の政令指定を受けました。その後に、提供条件の改善もありました。著作権法の文言の「児童生徒の学習の用に供する」ということで、ある程度の柔軟性をもたせ「障害のある児童・生徒は、在籍学年よりも下の学年のDAISY教科書を利用することが可能」、「先生が障害のある児童・生徒の指導のためにDAISY教科書の利用が可能」、「障害のある児童・生徒がいる学級では、先生は、必要に応じて一斉授業でも利用が可能」というように、利用の範囲や幅が広がりました。

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2009年の4月から、私どもは文科省を通じて、出版社から教科書のデジタルデータを受け取れるようになりましたが、第33条の2と契約上の問題でネット配信の実現がもたつきまして、10月に一部の制限はありますが、著作権法第37条3項により、文科省から許可を受けてネット配信を始めました。現在、利用者が11月9日現在では888名です。ダウンロード提供でCD−ROMの利用者が減ったかというと、まだ300人程度が利用しております。CD−ROMの場合ですと製作費や送付料がかかり、製作や送付のための手間もかかります。ネット配信になれば、これらが削減できると期待してきたのですが、ネットからのダウンロードでは利用できないという方達も、実はまだ多いということがわかりました。

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利用している児童生徒さんの在籍状況ですが、「特別支援学級」、「特別支援学校」、「普通学級」に在籍し、読みに困難があり「通級」などへの取り出し授業を受けている方たちです。それから利用者の障害種別では「発達障害」の方だけに限らず、「広汎性自閉症」、「眼球運動の障害」、「上肢障害」、「難聴」、「失読症」の方、「視覚障害」の方など。こういった方たちが申請し使っていただいているのですけれども、888人というのはとても少ない数で、本当に必要な方達にまだまだいて届いていないのが現状です。

依頼者は、保護者からが232名、それ以外が656名ということですが、最終的には利用者の所属学校経由で連絡をいただいています。それは先ほどの「教科書バリアフリー法」の附則により、誰が使っているのか、もちろん氏名はいりませんが、学校名と学年を文科省に知らせないといけないことになっています。そういう形での申請をしていただくよう、お願いしています。利用方法は通級指導などでの「個別学習」や本人または保護者が一緒に利用する家庭学習があります。それから「テストの準備」、「テストでの利用」、「通常学級での利用」などですが、少しずつですが増えてきています。

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それからどのような効果があったかということについて、昨年アンケート調査をいたしました。利用者は読むことに疲れてしまうのだそうですね。私も最近ブラジルに行って来ましたが、ブラジルの方も同じようなことを言っていました。疲れてしまって内容の理解にまで行かない人たちにとって、「読むことへの抵抗感、苦手感、心理的負担が減った」という結果がでています。また「読もうとする、学習しようとするきっかけになった」、「読み間違えが少なくなった」、「読むことに関心、興味がでてきた」、「文章の理解度が良くなった」、「授業に自信をもって取り組むようになった」、「DAISY教科書を使用した教科への学習に意欲がでてきた」、などの効果があったと回答しています。これは、皆様にお配りした資料にアンケート結果として、詳しく載せておりますので後でご覧下さい。

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それから文科省の研究委託事業である「発達障害等に対応した教材等の在り方に関する調査」ですが、昨年と一昨年の2年間行いました。その中で河村さんが書かれていることですが、電子教科書の機能として、「アクセシビリティ」、「ナビゲーション」、「注意喚起と集中の持続」、の3カテゴリーを検討しました。実際に、DAISY2.02をベースにして、先ほど申し上げましたように一部対応できない仕様があるので、拡張した独自仕様を採用しました。再生ツールについては、無償のAMIS2.6を当初使用し、その後はAMIS3.1の日本語対応版を用いております。そしてすでにDAISYでの指導をしている教員の方などに対してアンケートを実施し、どのような効果があったのか調査しました。

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「教科用特定図書等の機能とコスト分析」の結果については、皆様の配付資料にあると思いますが、コストの削減のためには作業をある程度自動化しなければいけない。そのための一つの解決方法として、EPUBというのがあると思います。また「教科用特定図書等の効果的な指導方法と教育効果」についてですが、対象児童に提供する際のDAISY教科書の効果的な指導法」は、先ほど申し上げましたDINFの中に、「活用事例集」を掲載していますので、そちらを見ていただきますと実際に先生方がどのように使っているのかとか、どのような効果があったか、そして課題は何かなどについての詳細がわかりますので、見ていただきたいと思います。

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次に「通常の学級で使用する際の活用方法と配慮事項」についてです。実はこれがメインになる研究だったのですが、通常の学級の中で発達障害などの読みに困難のある児童に、先生はどういうふうにインクルーシブな教育をするべきなのかについて検討いたしました。6人の児童生徒と彼らの保護者、そして実際に指導される通常学級の担任の先生にも協力していただいて、実証研究いたしました。詳しくは皆様のお手元の資料にも載せてありますので、見ていただきたいと思いますが、対象者の児童生徒は、ニーズに合わせて色々な使い方をしているのですね、パソコンだけではなくてマルチタッチのパソコンやiPadだとかiPhoneだとか、あるいは、専用機器を使うとか、好みや使いやすさについてそれぞれに聞きながら利用するツールを選んでいきました。

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研究成果としては、家庭学習であっても、通常学級であっても、適切な支援によって学習意欲の向上や進路希望につながるなど、自尊意識の回復などが見られました。自尊意識の回復というのはどうやって調べたのかというと、これはある方から質問されたことですが、自分の中で今までは「読めない」と思っていたのが、読むことに対する変化を見ました。数字で出す方法もあるのですが、そういう数字が確実なものを表すのかという疑問もあり、どのように変化していったかを観察しました。

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私たちがマルチメディアDAISY図書の普及を始めたきっかけは、人生を楽しむそのため、読書を楽しむということにあるのではないかと思っていましたので、そういった教育効果が得られたのではないのかと思います。それから通級指導教室と在籍級(通常の学級)との連携ですが、今どこの部分まで授業が進んでいるのかを通級指導教室の先生に教えて、それを補完するような指導をしていただくとか、そういう連携がとても重要であったかなと思います。そのことによって通常の学級での授業参加が促進できた、という効果が得られたのだと思います。

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発達性読み書き障害のある小学校4年生の児童の場合の効果ですが、そのお子さんがDAISYを使い、その成果をテストにより成績にどのような変化があったのかを測りましたが、紙のテストで受験をするのは大変です。そこでテスト自体をDAISY化したことで、今まで先生に読み上げてもらっていたテストが、一人で問題を読み回答しました。そして次のような感想がその児童からでてきました。次のような結果がでたのは、対象児童のDAISYの利用について理解と協力をしてくれた他の子ども達との関係もあったとかと思います。

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「いままでやさしくしてくれてありがとう。ぼくは、二年生まで、ぜんぜんあたまをつかってなかった。三年生から、あたまをつかいはじめて四年生ではDAISYをつかったべんきょうほうほうもできるようになった。○○先生もステップでもいっぱいおしえてもらったけど、ぼくは、じぶんでテストをできたのがうれしかった。ぼくもがんばったけど、みんなのおかげもいっぱいある。ありがとう。」

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これからの課題ということですが、まだまだ対象児童生徒へ届いていないことです。それからどなたかが言われたことですが、日本語での製作ツールが少なすぎるのですね。そのような意味で、プログラマーの方達も是非参加して欲しいと思います。来年から中学校の教科書が教育課程改訂で変わってしまうのです。そうなるとボランティアだけでやれるのだろうかという、不安があります。先生など利用者の方の理解も十分得られているのだろうかと考えると、そのための研修も必要です。

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学校のパソコンにDAISY再生ソフトをインストールするのに、教育委員会からの制限がかかっている。何よりも国レベルでの支援がないということ。これらを解消するにはどうしたらよいか。やはり法律に基づいて、無償給付という提供システムを確立する必要があります。今日のこのような場所に私のような者がしゃしゃり出てくるのは、やはりこのように言っていかないと協力者も出てこないし、アピールもして頂けないということなのでやっているわけです。国会議員の方達にも話を聞いていただくこともあり、要望したDAISY教科書の提供方法は改善されました。私だけでは3ヶ月もかかってもできなかったことが、国会議員の方からだと2日で解決してしまいました(会場笑)。でも私たちが投票して選んでいる国会議員さんですから、やはり私たちが主体です。

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学校の先生方の協力による好事例の収集や、外国での先進例の紹介などもしています。外国の先進例というと、アメリカ、オランダ、デンマーク、スウェーデンなど色々あるのですが、何が一番違うのかというと、国が支援しているというところです。やっていることは日本と同じですが、そこが一番違います。何故アメリカでは連邦法で決めたのだろうか、オランダでは「デジコン(Dedicon)」というところが国から助成を得て、無償で対象者に配布している。デンマークでは「ノータ」という国立点字図書館だった機関は、ディスレクシアの方達からの依頼が増えたので、点字図書館という名称をやめて「ノータ(Nota)」という名称に変更したそうです。スウェーデンではTPBという国立点字・録音図書館が、大学生向けに、またそれ以外の児童生徒にSPSMという国の特別支援教育機関が、DAISYなどアクセシブルな図書、資料の提供を行っています。こういう事例については、全てDINF(障害保健福祉研究情報システム http://www.dinf.ne.jp/ )に載せてありますので、探していただくと色々な情報の宝庫でありますので見てください。

DAISY教科書提供の目的は、「読むことがうまくなる」ということだけではありません。最低限、支援の保障としてあって欲しいと思います。「できる、できない」、「読みがうまくなる」に係わらず提供する義務があるということです。そういう意味でDAISY教科書が「合理的配慮」として考えられていくことを期待します。

EPUB3との連携に期待しつつ、今後の私どものDAISY教科書提供事業がもっと広がっていって欲しいと思っています。別に私どもがずっとやり続けるのではなくて、第三者機関などを主体として、国の法律をベースにした無償提供事業が行われるようになることを願って、終わりにしたいと思います。ありがとうございました(会場拍手)。

● 司会:ありがとうございました。それでは、ここでまた休憩をいただきまして、ご質問はその後にお願いいたしたいと存じます。


4. 質疑と意見交流

● 司会:それでは、ここからは質疑応答と意見交流ということでお願いいたします。はじめに野村さんの発表に関して質問をいただき、その後に、河村さんの発表内容も含めての、会場からの自由な意見交流という形で進めさせていただきます。それでは、はじめに野村さんへの質問をお願いいたします。

● 質問 1 (要旨):埼玉県鴻巣市では、小学校で国語の教科書だけDAISYが利用されている。しかし通常学級での利用が主であり、特別支援や通級教室等での利用は進んでいない。このDAISY教科書の利用申請は、市町村としてどのようにするのか。また、自宅学習用としての購入や利用の場合、難しいという話を聞いているが、DAISY教科書の入手方法はあるのか。各教育委員会でそのための窓口を持っていることが必要なのか。

● 回答 1 野村:私どもで製作しているDAISY教科書は、文科省を通して出版会社からデータをいただいております。そのため申請書の中でどのような障害、あるいは困難を抱えているお子さんが使うのかとか、そしてセキュリティに関し責任者の方の承諾書というものをお願いしております。これは、出版会社からデータ提供受ける際の契約条件としてあるからなのです。

保護者の方からの依頼があった場合は、まず学校からの許可をいただき、実際に使うのは家庭ですので、保護者の方が申請し利用者の代わりにダウンロードをするか、CD−ROMで受け取るという方法で、提供させていただいております。

教科書提供課という部署が文科省にあって、そこが窓口になっていますが、できましたら各教育委員会が一括して、その自治体なりその地区の学校からの依頼を受けて、私どもへ依頼をしていただけると、手っ取り早くスムーズにいくのかなと思います。学校のパソコンとは教育委員会が管理をしているそうですね。ですから、新しいソフトを使用する場合には教育委員会の許可がいります。その教育委員会が許可をするということであれば、当然新しい再生ソフト等のダウンロードやインストールもできるものと考えます。

東京都内の特別支援学校では、私どもが研修会をやるのにAMISをインストールする許可を教育委員会からいただきましたが、申請してから1ヶ月がかったそうです。その他にDAISYトランスレータもインストールをしたいということでしたが、申請の時間が足りないとのことでできなかったようです。結局、私どものデモだけで終わってしまいました。1ヶ月間かかっても、できるのであれば良いのですが、教育委員会を通していただければ、いろいろとスムーズにいきますし、私どもの負担も減ると思います。

● 司会:ありがどうございました。ここからは残りの時間で、質問に限らず自由に意見交流もしていただくようお願いいたします。

● 質疑・意見 1 (要旨):カラーデザインの業務関係者。「色覚に困難」のある方達に対して、DAISY教科書の画面コントラストや文字色変更での対応はどうなっているか。またそれらの対応は、既存の研究データなどに基づくものなのか。最近ユニバーサルデザイン・フォントの利用が広がっているが、DAISYではどうしているか、独自の仕様などはあるのか。

● 回答・意見 1 河村:カラーについてDAISYの規格では、特に決めていないです。ただ実際には、HTMLとかXHTMLとか、HTML5とか、それぞれのテキストと画像を表示するレンダリング環境で変えられるものですから、普通はプレイヤーの側で非常に広い範囲で色を変えられるようになっているのですね。

ですからプレイヤーの機能として、ユーザーが自分でバックグラウンド、フォアグラウンド、それからハイライト表示など、少なくともその3種類については、色を1,600万色の中から自由に選べるようになっています。現実的には使われる組み合わせは、数十通りぐらいに収束すると思いますが、一応機能としてはもの凄い種類の色の中から選べるのです。実際に使っているケースとしては、いわゆる視覚に障害がある方達は、もちろん使うのですが、弱視とカテゴライズされる方ですね。

もう一つは、いわゆる学習障害で、あまり視覚というふうにはご本人も思っていない人も、色を変えた方が見えやすいという方は結構いて、自分の好みに色を変えています。小学校3、4年生で、さっと自分の好きな色に変えて使っているお子さんもいますので、色を変えたほうが読みやすいという人は、結構いると思いますね。

これらについての実証的な研究があるかというと、どなたかやっているかも知れませんが、私の知る限りでは、弱視の方について、カラーコントラストと色の透明度ですね、それぞれの色の透明度何パーセントにするかとか、それによって、どう見え具合が良かったか、悪かったか、というのは弱視の方については研究したものはかなり知っていますが、その他の発達障害の方については、あまりデータとしては見た事がないです。学会にはいくつか、そういう色についての実証的な研究のレポートは、出ているとは思います。発達障害の方については、ちょっと私はDAISYを使ってというのは知りません。

あと、フォントですけれども、これ基本的にはどのフォントでも使えるので、自由にフォントは選べるというのが実際のところです。特にDAISYの規格用ということで、フォントを作っているということはありません。

● 回答・意見 1 野村:昨年行ったアンケートの中で、「コントラストを変更して使用しましたか?」という質問もしました。ほとんどの回答が、「変更なし」だったのですね。ただ、先生が、「こういう形もあるよ」、と教えてあれば、変更した可能性もあります。「変更なし」という回答はこのままでいいとは思えませんが、一応アンケートはとってあります。

● 回答・意見 1 司会:よろしいですか?ちょっと司会から余計な話をして申し訳ないですけれども、たしか日本LD学会の学会誌で、ディスレクシアの子どもさんについて、透明のブルーシートだか、グリーンシートをかけて読みやすくなったという論文を読んだ覚えがあります。細かいところまでの記憶が定かではありませんが。
 (注)読みに関連する色フィルムの効果に関する研究−日本人の一般的な傾向と読み書き障害児の結果− (筑波大 熊谷 恵子)

それからイギリスのディスレクシア協会だと思いますが、あやふやな知識で申し訳ないですが、そこでも似たような報告がありました。ふつう我々はコントラストが強いほうが読みやすいと思うのですが、不思議なことですがある種のタイプの方は、逆に読みづらいということで、画面の背景を薄いブルーやグリーンにすると、読みやすくなるということだったかと思います。うろ覚えで申し訳ございません。
 (注)How do coloured overlays help dyslexic pupils? British Dyslexia Association(BDA) など

● 質疑・意見 2 (要旨):盲学校に勤務の教諭。盲聾重複障害の方にブレイルセンスなど最新機器を使い指導している。しかしDAISYは自分たちに関係ないと捉えているようだ。当初DAISYは全盲者をターゲットとし、ディスクレシアなどを経て、第3、第4ステージへと進化することで盲聾者もターゲットにしてほしい。特に学童期用のコンテンツは非常に少ないので、それを盲聾者に提供できる可能性があると思う。

点字や点図で情報提供できるとのことだが、デバイスが手元にあればこそのこと。それらを個人で用意できるような環境作り、またそれを保証できる国産アプリの整備や、国からの補助が必要だと思う。

● 回答・意見 2 河村:はじめの御意見は、結局テキストがコンテンツの中に含まれていて、それにアクセスできるかできないかという点が大きいのですね。日本は著作権法がよくなかったのです。点訳や点字ファイルはいいけれども、テキストでのアクセスは駄目だという著作権法が、ずっと続いてきたのですね。それで、あの「点訳広場」でも、結局点字のデータファイルをネットワークで交換することまではできていたのですが、テキストファイルの交換はできなかったのですね。

これは著作権法の関係なのでした。点字の世界では自由にやっていいよ、でもテキストのアクセスは駄目だよ、という著作権法でずっと来ていて、2010年にやっとテキストのアクセスもOKとなったのです。ですから、外国では図書をスキャンする権利とか、テキストファイルに、視覚障害の方がそのままアクセスする権利は、すでに1990年代には確立されていたのに、日本では点字に関しては全くフリーだけれど、テキストは一切駄目という状態がずっと続いてきた。この不幸な状態が、是正されるのが遅かったことが、DAISYがずっと音だけで来てしまったことにつながったと思います。

それがやっと2010年の1月1日から是正されましたので、これからいよいよ盲聾の方も、点字でアクセスできるDAISYが自由に作れるようになった。これからだというふうに思います。それと、特に学齢期の、お子さんが読むものが少ないということでしたが。いわゆる読書には二種類あって、楽しんだり、人生を豊かにするという読書、これはすごく大事な読書ですが、それと、勉強したり、調べたりする読書、とがあります。結局勉強したり、調べたりするための読書のコンテンツが、ずっと作られてこなかったのですね。

それはこれまでの日本の点字図書館が、実際にサービスする対象の方では、年齢的に現役を終えられた方が多かった。だから、ユーザー層から見た人数からいくと、人生を楽しむために読書する、という方がすごく多かったので、その方達にサービスするという点では、それはそれで当然だったと思うのです。

ただ、国がやはりもう少し力を入れるべきだし、これから技術ができたらもっと力を入れるべきだと思うのは、職業的にちゃんと自立して行くために読みたいという読書、いわゆる教育とか、専門書とか、そういうために、自立の為に読みたいのだという読書をきちんと支えるということが、これからの課題です。それが、教科書問題にもつながっているのだと思うのですね。

そのための技術としては、やはり出版をする時に、さっき申し上げましたように、これからはもうEPUBがありますから、出版社が、最初からEPUBでの出版を視野に入れ、どんどんそれを売って欲しいと思うのですね。紙と同じような値段で多分出せるはずです。ほとんど余分なコスをトかけないで、最初から計画すれば紙の本を出しながら、EPUBの本も出すこともできるはずです。そういう出版社としての努力目標を持っていただきたいし、そういう方向で、国として誘導していくべきだと思います。アメリカやその他の国では差別を禁止するという法律の枠組みの中で、できることはやらなければいけないとなっているのです。

リーズナブルアコモデーションとか合理的配慮とかの概念が、障害者権利条約の中にありますので、さっき申し上げましたように出版社がちょっと意識すれば、EPUBでアクセシブルなものを電子出版することは簡単にできるわけです。ですから、「それができるのにやらないでいるのは差別ではないのか」という、そういう論理が普通の、「ものすごく大変なことでなければやってみて、障害のある人たちも共に暮らせるような社会を作る」、そのためにお互いに努力しよう、という目標があるのが当然で、それを法律で決めるために、障害者権利条約を批准するという、世界の流れになっているわけですね。そういう中で、盲聾者の方もアクセスできるものが、出版社がやればテキストファイルが入ったものが、そのまま簡単に出せるようになる。もっともっと、自立の為に読むものも、広がっていくのではないのかなというふうに思います。

二つ目の、点字や点図のデバイスに関するご質問ですが、実はこれが世界共通の悩みです。ブラジルでDAISYの理事会があり、二日前に帰ってきたところですが、そこでも世界中みんなで共同して技術開発をやろう、という話がでました。いよいよ、コンテンツのほうは大量に読めるものを出せる技術がやっとできた。EPUBが成立したので、やっとできた。それで今度は、読むためのデバイスを、点字で読めるようにもっと安くやらないといけない。世界の障害のある方のだいたい9割ぐらいは、開発途上国に住んでいるわけです。その人達が読めないのではないか。金持ちだけが読めるというのは、やはりまずい。

世界中でマーケットを一つにまとめて、技術開発をやって、もう極端に点字ディスプレイを安くする技術を開発しよう、という話が出ていました。いくつか候補があるらしくて、いよいよ読めるものが沢山でてくるのだから、それを読むためのデバイスを大量に安く作ろうという動きが始まるという話は聞きました。その後まだ、数日しか経っていませんので(会場笑)、具体的にどう展開するのかですね。特にルイ・ブライユ(Louis Braille)も生誕200年を過ぎたわけですから、いよいよ今の最新技術を使って、いつでも、どこでも、安く、点字を読める、そういうデバイスを作りましょうという動きが、本格的になると期待しています。

● 司会:それでは次の方どうぞ。

● 質問 1 (要旨):DAISY教科書のアンケート調査結果等に関する質問で、通級教室と通常学級の連携の具体的内容、DAISY教科書の利用形態はどうなっているのか。またテストに関する話があったが、それは通級教室でのものか、それとも通常学級でのものなのか。

東大先端研でも同様の調査研究をやっているようだが、これはDAISYを使ったものなのか。伊藤忠記念財団主催のシンポジウムが近々にあるが、DAISY教科書との関係はどうなのか。この他にも色々な団体があるが、電子教科書に関してどこから公式な情報を得たらよいのだろうか。

● 回答 1 野村:先ほどの通級教室と通常学級の先生との連携についてですが、当初は通級指導教室の中だけの一対一対応で、DAISY教科書を使っていたのですが、通常学級の一斉授業の中でDAISY図書やDAISY教科書をどのように使うのかとか、対象の子どもにとって一番よい方法を連携してお互いに相談しながら見つけていきました。その子は「読み書き障害」で書くこともできなかったので、当時は小学4年生で(今は5年生になりましたが)漢字を書くことができなくて、読むことができても書くことができないのは困るということで、書く練習を通級指導教室で行い、できるだけ通常学級でDAISY教科書を使っていただくという試みをしてもらいました。

実際には、ほとんどが通級指導教室での個別対応で、DAISY教科書は使われているのです。ただ、最終的には、やはりみんなと一緒に勉強したいという子どもの気持ちを叶える、という意味で通常学級でDAISY教科書が使えないかという研究をさせて頂いたわけです。ですから、DAISY教科書は使っているけれども、そこには基礎的な学習力というものが必要であったので、そちらは通級指導教室の先生にバックアップして頂いたという形になります。通常学級の担任と通級教室の先生が本当に密接に連携して、お互いに「今日はどうであった」とか、「ここまで進んだ」とか、そういう連携の結果、このお子さんはみんなと一緒に勉強できたことを実感したわけです。

それからせっかくいろいろ勉強できるようになり、読むことに少しずつ抵抗感が無くなってきたのですが、それで得た知識を確かめるためには学力テストをします。でも学力テストは紙なのです。紙のテストはやはり抵抗感があり、難しい壁なのですね。ですからそれがDAISY化されて音で聞けるのであれば、どのぐらい効果があるのかを確認するために、テストをDAISY化させてもらいました。しかし解答は手で書くということで、漢字などはほとんどできていなかったです。ですが、「ごんぎつね」の文章で心情を読み取る問題については、ほとんどができていました。紙のテストに比べて、ずいぶん結果が違っていたのではないかと思います。

それから、伊藤忠記念財団さんの講座が開催されるのですか・・・?

● 司会:司会からすみません。先日ご案内を受けまして、実は私も参加する予定になっています。そこではDAISY図書のこともやるそうです。伊藤忠記念財団さんでも、DAISY図書をCD-ROMで配布する事業を始めたそうです。ただ、DRM(Digital Rights Management)がかけてあるそうなのですが・・・

● 回答 1 野村:そうですね複製できないようにしているので、CD-ROMからしか聞くことができないようですね。例えば、視覚障害の方が専用機器で聞きたいと思っても、CD-ROMから複製して聞くということができないです。マルチメディアDAISY図書を作る団体が、これからも増えるのは良いと思いますが、私たちと共同で実施したわけではないので、配布のポリシーとかDAISY図書を作る際の出版社等とのやり取り、そのあたりはポリシーが違っているかも知れません。

ただできあがった物は、マルチメデイアDAISYであることは確かです。技術的な部分は多少アドバイスさせていただきました。ただ、DRMですね、著作権や複製について、その団体のポリシーのようなものは、私どもでは変えられなかった部分があります。そこの部分が同じであるとは考えないでいただきたいです。
 (注)2012年度版からは「電子透かし」方式に改善されました。

● 司会:それから、東大での研究についてはどうでしょうか。

● 回答 1 河村 :それについては私からお答えします。DAISYに関しては先ほど申し上げましたように、私自身は開発して普及するという立場で係わっていますので、これからどういう方向で開発するのか、何を直していくのか、ということを決める主体の一部になっている。だから次に何をするかは自分たちで決めていくという、責任を負っているわけです。もちろんDAISYはオープンスタンダードですから、どなたでも自由にどんどん使っていただきたいと思っています。

先ほどのご質問では、「誰に聞いたら何が分かるのか」が分かりにくいということだと思うのですが、今ここで事実として申し上げられるのは、DAISYを開発している団体はDAISYコンソーシアムというスイスにある非営利団体です。各国にそのメンバーの構成団体があります。日本でメンバーとして加入している団体は、日本デイジーコンソーシアムというグループで加入しています。

日本デイジーコンソーシアムを構成している団体というのは、野村さんが所属している「日本障害者リハビリテーション協会」が事務局で、その他に正会員、これは無限責任を負うような団体で、私が所属している小さな「NPO支援技術開発機構」、「社会福祉法人日本ライトハウス」、それからサピエ図書館を運営している、「全国視覚障害者情報提供施設協会(全視情協)」の4者が正規会員です。他に賛助会員として「奈良DAISYの会」と「日本点字図書館」の6団体です。それから他に賛助企業から日本デイジーコンソーシアムにご寄付いただいていますし。国際DAISYコンソーシアムにも賛助企業として寄付をしてくださっています。国際DAISYコンソーシアムには、マイクロソフトとかアドビとかグーグルといった超巨大企業が、非常にささやかな寄付(会場笑)をしてくださっています。

会費がどのくらいなのか参考までに申し上げますと正規会員というのがありまして、日本デイジーコンソーシアムで一つの正規会員ですが、年間3万ドルちょっとです。かなり高い会費です。その正規会員の会費が主たる収入源で、開発を維持しているのです。さらに、それぞれの図書館とか団体が、共同開発でDAISYコンソーシアムのスタッフの力を借りて、何かやりたいというときには、少しお金を分担金として出してもらってプロジェクトを作って開発する。

ですから売る物が全くない団体なのです、DAISYコンソーシアムというのは。全部ただですから。売る物が全くなくて、EPUBという世界の規格を動かすような開発を、中心になってやっているわけです。これは奇跡としか言いようがないのですね。それはある意味、みんなの善意で成り立っている。何とかこの規格を普及し、開発することで、世界中でみんなが知識にアクセスできるようにしようということです。

最初に図書館の団体だと申し上げましたけれども、図書館というのは料金を取らないですよね。それで、誰でも使ってくださいということですね。実は、その思想が根底にあります。それを、今使えていない人達に、本当に申し訳ないと。だから世界中で共同して使えるようにしよう。それは出版から直していかないと、どうしようもない。というので電子出版の規格を最終的なゴールとして、やっと今、EPUBまでたどり着いたということなんです。

それでは、「どこに聞けば一番よく分かるのか?」という、さっきの話に戻りますが、成果を使っていただくのは大変ありがたいし、是非使っていただきたい。率直に申し上げますと、主体的に開発しているプレイヤーと、それを使ってくださっているプレイヤーとが存在しているわけです。ですから、皆さんが「誰に聞いたら一番よく分かるのか」というときに、これは開発している元々の所に聞いた方が分かるかなと思うのであれば、日本デイジーコンソーシアムか、国際DAISYコンソーシアムのメンバーに聞いていただくのが一番確かです。

ただ使ってくださっている方の中には、開発者以上にうまく使っている方もいらっしゃるのですね。ですから、そういう方達からのフィードバックも大変ありがたいので、私はどんどん使っていただくのは大変ありがたいと思っています。ただ、時々開発者が思ってもみないことが起きることがあります。例えばプロテクトをかけたDAISYというのが、それなんです。DAISYコンソーシアムは、理事会ではっきり声明を出しています。これはウェブでも公開しています。DAISYコンソーシアムは基本的には、情報アクセスを阻害する、見えなくするプロテクトには反対であるという立場をとっています。

つまり、アクセスというのは何よりも重要なことであって、それを見えなくしてしまってはDAISYを開発した意味がないのですね。ですからDAISYを使うときには、そこにアクセスできなくするようなプロテクトはかけないで欲しいというのが、DAISYコンソーシアムの立場です。DAISYを使いながらプロテクトをかけているというのは、私たちにとっては想定外です。それで、そういうのはDAISYのやり方かと聞かれたら、それは違いますとはっきり言わざるを得ません。誰でもがアクセスできるように、DAISYの技術を使っていただきたいというのが私たちの思いです。

それでは、著作権はどうするのだという議論になったら、私たちは技術では海賊版からは守れないという立場なのです。それは、みんなで著作権を大事にしていくという思想を強めていかない限りは、海賊版を作るプロというのは、あっという間に色々なプロテクトを簡単に解除してしまうのですね。ですから、そんなものに解除できないようにプロテクトをしてしまったら、アクセシビリティも何もなくなってしまうのです。

それよりも海賊版は買わない、作らせないというみんなの著作権を大事にするという活動を進めることが大事で、著者の方達、出版社の方達は、そういうみんなの著作権を守るという意志と活動とに依存するので、利用者に対しては「人を見たら泥棒と思え」ではなくて、みんなの善意を信じて欲しい。それでアクセシビリティを閉ざさないで欲しい。

そういう方向で、例えばウォーターマーク、電子透かしというのがあるのですね。アクセスは妨げない。でも透かしが入っているから、これはどういう物であるということが、偽造すると分かるのです。そういう仕組みですが、こういう物はいいのではないかと思います。とにかくアクセスを妨げないようにしていただきたいというのがDAISYの公式の立場です。

東大の研究ですが、東大の方達がNIMASやDAISYを使っているところに調査に行かれたことは確かです。ただ、東大の研究がDAISYを使っているのかどうかは、私は知りません。東大の方達と議論すると、DAISYはお金がかかりすぎるとよく言われるので、EPUB3だったら全然お金はかからないのではと、私は思っているのですけれども。ここら辺は東大のグループとは、もう少し議論を進めていきたいなと思っています。東大グループはNIMASにも調査に行かれたので紹介はしているのですが、NIMASがDAISYであるというのは、あまりはっきりとは聴衆には分からないようですね。

色々なところで、そこで使われているのはDAISYなのだけれど、違う名前がかぶっていると、それはDAISYではないと思ってしまう方もいらっしゃるようです。最初に申し上げましたようにDAISYは開かれたもので、あちこちでどんどん使ってくださいというもので、何の断りもなく使ってもらってかまわない規格として出しているですから、時々気がつかないで使ってらっしゃる場合もあるようです。

それから国立国会図書館のことですが、これも私どもはあとから知ったのですが、実証実験をしたときにDAISYの規格を使っておられたようですが、もう少し詳しくご相談があれば、その時点での最新の日本語の縦書きとかルビなども使える規格を開発していたので、それを使っていただければよかったのにと、ちょっと思っている部分もあるのですが。ご相談いただければ、私たちはあちこちで使っていただきたいというのが願いですので、できるだけご協力をして、どんどん使っていただきたいと思っているところです。


5. 閉会の挨拶

● 司会:まだまだ、お聞きになりたいこともあるかとは思いますが、会場の撤収や時間の関係もございますので、残念ですがここまでとさせていただきたいと存じます。講師の皆様ありがとうございました(会場拍手)。それからこの後懇親会がございますので、そちらもよろしくお願いいたします。本日は皆様ありがとうございました(会場拍手)。

※ 当初予定していた講演者、主催者側等からの「まとめ」については、時間の関係で省略したことを付記しておく。


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