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皆さんこんにちは、ずいぶん遠くからもいらしてる方もおられるようで、少し緊張しながらお話をするのですが、40分の時間をいただいておりますので、まだ一度もデイジー(DAISY)の実際に音が出て、再生しているところを見たことがない方がいらっしゃるならば、途中でちょっとお見せしようと思うのですが・・・デイジーのマルチメディアが実際に動いて、音が出ているのを一度も見たことのない方がいらしたら、手を上げていただけますか。
【参加者45人中のうち半数ほどが挙手】
はいわかりました。途中で、実際にはどういうふうに見えて、聞こえるかということも、ご紹介したいと思います。
ご紹介いただきました、河村です。私の今日の立場は、ここに書いてありますように、デイジーコンソーシアムという、国際コンソーシアムの理事をしております。デイジーコンソーシアムのメンバーシップとしては世界で19の正会員があり、日本からはその中の一つで日本デイジーコンソーシアムというグループを作っております。私がその日本デイジーコンソーシアムの運営委員会のまとめ役をしており、それでデイジーコンソーシアムに出ていることで理事をさせていただいております。それとは別に、その日本デイジーコンソーシアムのメンバーの一つであります、「NPO法人・支援技術開発機構(ATDO)」というところの副理事長をしております。
今日は、日進月歩の国内外の最新動向についてということですが、技術的にはいろいろ細かいことがたくさんあり、私も全部を存じているわけではありません。さらに今日は後半でテクニカルなお話しを、それぞれ開発を進められている方からしていただけるチャンスがありますので、私のほうはどちらかというとポリシーにかかわる部分を中心に、これからどういうところに注目をして研究や開発や普及を行なっていこうとしているか、ということをお話しするのが今日のプレゼンの趣旨です。
今日は、紙ではお配りしないのですけれども、井上(司会)さん、後でこれは・・・何か配れるチャンスはあるのですよね。今日のプレゼン資料に関しては・・・
【井上(司会)】はい、ウェブで公開してよろしければ、そのようにいたします・・・
はい、私は公開していただいてかまいません。それではこれは後日、お手元へ届くということで、よろしくお願いします・・・
まず「フォーマット」という、規格のお話を中心にすることになります。なぜ今デジタル版教科書のフォーマットを議論するのかということで、問題提起させていただきたいと思います。従来デジタル教科書というのは、「版」がつくか、つかないというのがあるのですが、デジタル教科書と言って文部科学省が開発を進めてきたものは、「読む」だけではなく、「書ける」機能とか、それからタブレットがいいかあるいはキーボードがあったほうがいいかとか、いろんなハードウェア、デバイスと言ってもいいかもしれませんが、そういったものが全体として一体になっているのがデジタル教科書であり、そういうものを議論するということでずっとやって来たと思うのですね。
そういうふうな議論が最近どのように推移して、収斂してきているかというお話を、今日私の次に近藤先生(東京大学先端科学技術研究センター)のほうからしていただけるので、楽しみにしているのですが、私が横から拝見している範囲では、「デジタル版教科書」とは紙の教科書、これは検定済み教科書です、その内容がデジタル化されているもの。つまり「デバイス」は含まない。「書く」というのも含まない。紙の教科書の内容をデジタル化したもの。それを「デジタル版教科書」と定義して議論していこうという話が、ごく最近の動向のように思います。
もしそうだとすれば、やっと機が熟したのかなと私は思っております。諸外国の例を見ても、全体のトータルなシステムでデバイスまで全部固めて、そのシステムをどうするというふうにやると、収拾がつかなくなるというのは分かりきったことなのですね。日進月歩でハードウェアはあっという間にどんどん進化します。ですからハードウェアまでひっくるめて、全国に一千万人小中学生いるわけですが、その一千万台をどう調達するかなどという議論をしたら、たぶんいつまでたっても終わらない。それがやっとここでコンテンツに注目をして、そこを議論しようということになってきました。
オープンスタンダードを採用すれば、デバイスのちがいというのは無視をできる。それぞれいろいろなデバイス、画面のドット数も大きさも違うし、キーボードの有無であるとか、いろいろなデバイスの違いを超え、コンテンツの制作者の意図がちゃんと読み手に対して表現できる。そういうふうなコンテンツの仕様を前提にして、それをデバイスあるいはOSを超えてとなると、いわゆるオープンスタンダードを、どうしても考えざるをえない。
そのオープンスタンダードの電子出版の国際標準として、もうISO規格にもなっているEPUB(イーパブ)があります。私が知る限りほとんどの教科書会社が、「将来デジタル教科書のコンテンツを作るとすれば、それはEPUBになるね」、というところで一致をしているというふうに私からはみえます。
そうすると大きなプラットフォームとしては、EPUBという国際標準規格があり、そして私どもの関心でありますアクセシビリティ、障害のある子どもたちもその教科書が使えるかどうかという課題に関しては、EPUBのアクセシビリティということで議論していけば、そこにゴールが見えてくるのではないかというように、だんだん課題が整理されてきたと思います。
現在のいくつかのファクトを申し上げますと、現在のデイジー版教科書製作の流れでは、ここのところ富士ゼロックス社が毎年文部科学省の委託を受け、教科書会社からデータを集めます。そのデータの基本はPDFになっています。PDFではどうしても足りないところは、テキストデータで補うということもできます。そして、そのデータを加工する団体に提供する形で、デジタル版のデイジー版教科書というものを作っているわけです。
ただしこれは法律的にいいますと、必ずしもそのデータの提供がなくとも作れるのです。紙の教科書をスキャンして作るということが、もうひとつございます。しかしただスキャンをしただけでは、間違いなく本当のテキストと合っているかどうか、校正にものすごい時間がかかります。したがいまして全体としては能率が悪いので、基本的には提供されたデジタルデータを使って、デイジー版あるいは点字版、拡大文字版等の教科用特定図書を作っているということになります。
そして事実の2番目ですけれど、この教科書デジタルデータはPDFフォーマットと規定されています。これは「有識者会議」での結論ということで、PDFが選ばれているのだと思います。
事実の3番目としては、EPUBは電子出版の国際標準として既に広く受け入れられており、日本のほとんどの出版社はこれから、すべてこのEPUBを使っていくということで、準備を進めています。
4番目としましてはEPUBのアクセシビリティは、実は現在デイジーで使っているアクセシビリティの技術を継承しています。そこが実はポイントでありまして、EPUBの開発、特にアクセシビリティの部分の開発は、デイジーコンソーシアムの開発者がその役を担っている。すなわちデイジーのアクセシビリティを開発してきた技術者が、そのままEPUBのアクセシビリティを開発しているということです。
技術的にデイジーの特徴と言われていますのは、「同期」です。「シンクロナイゼーション」という言い方もできるのですが。つまり一緒に提示をする。何を「同期」するのかといいますと、基本はテキストです。デイジーの場合にはテキストと音声とを同期できる。そしてこれを実現している技術的な標準が、W3Cという団体がウェブの標準団体ですが、そこが標準技術として開発しメンテナンスをしているSMILです。「スマイル」と読みます。EPUBですとSMIL 3.0を、デイジーですとSMIL 2.0を使っています。
こういうSMILという技術で、テキストと音声とを同期できる。実は動画まで同期できるのです。テキストデータあるいはテキスト情報というのは、ランダムアクセスといういい方ができると思いますが、ポンと何処へ跳んでも、テキストはテキストで見えるわけですね。文字などは抜き出しても、それは文字として見えます。音声データというのは、一本の糸のようにつながっているもので、それを行ったり来たりすると、なんだか訳が分からなくなります。再生する時は、この前後の関係が重要というのが音声データです。
この音声に依存しない、つまり時間の流れに依存しないテキストデータを、音声という時間の流れに依存するものにピタッと付けるという技術が、このSMILで実現したのです。実は最初にデイジーを開発した時に、非常に力を入れてSMILを開発したのです。
もとはデイジーのバージョンを上げるためSMIL 3.0としたものが、デイジーとEPUBとが一緒に開発するようになってから、EPUBの中で使われるようになったという関係にあります。そういう意味で、このように理解してください。EPUBというのはアクセシビリティの部分に関しては、デイジーの開発者が開発している。そして、デイジーの最新版というのは実はEPUBです。デイジーとEPUBは最新版になると、一緒になります。今回の研究会のご案内にDAISY/EPUBと間に斜線が入って、「DAISY斜め線EPUB」と書いてあるのはそういう意味です。
もう一つは国会図書館が「eデポ」というのを始めました。デポというのは「納本」の意味です。日本の法律では、すべての出版物は国会図書館に、出版者が必ず納本しなければいけないという義務があります。それを電子出版についてもはじめました。PDFとデイジーとEPUBのフォーマットで、暗号化してないものについて受け入れをしています。2015年の7月から国会図書館では、この3つのフォーマットについて納本がはじまっています。それを「eデポ」というふうに呼んでいます。
それから最後に重要な事実として、デイジー教科書利用者が約3,000人に達したということです。これは教科書バリアフリー法が始まった頃は、もっとずっと少なくて、二桁ぐらいから始まっていたのですね。それが今はもう3,000人になっている。これが非常に重要なもう一つの事実になります。
以上の「事実」に続きまして、少し歴史的なことですけれども・・・普及という意味では、実は世界中で日本が一番早くに全国にデイジーを普及しました。スウェーデンやアメリカよりも早いです。それはもう前世紀のうちに、2000年に基本的な普及が終わりました。ただし、それは当時の著作権法の制約から、視覚障害者のための録音図書に限定されていました。しかしこれは当時の厚生省の非常に大きな功績だと思いますが、一挙に全国の点字図書館にデイジーの導入を図り、その後いち早く世界でもっとも充実したオンライン図書館を、視覚障害者は使うことができるようになったということであります。
このスライドで示したのは、補正予算の事業を日本障害者リハビリテーション協会が厚生省から受託して終わったときに、デイジー録音図書目録という大活字版の目録をつくって、全国に配りましたが、その目録の「序文」なんですね。これ平成12年(2000年)だから、ちょうど15年前の序文に、次のように書かれています。
「学習障害や知的障害の人々にもデイジー図書は有効と思われますが、著作権の壁が厚く立ちふさがっています。そしてこの面での取り組みは、障害者関係17団体が組織する障害者放送協議会が精力的に進めています。」
また著作権法改正運動というのをデイジーのグループはやってきました。今日の研究会を主催されている井上さんは、この障害者放送協議会の著作権委員会の二代目の委員長をされて、そのあとの著作権法の改正に尽力をされています。
これは、ちょっと色あせた写真です。1999年8月6日のタイムスタンプがあります。全国のボランティアの方たちが、デイジーの作り方を学んで・・・これは今日、ご発表いただくシナノケンシさんにずいぶんいろんな形で貢献していただいたのですが・・・普通は委託事業ですから、会社に委託して終わると、その機材というのは、どこか消えちゃうわけですね。このときは特別にいろいろお願いをして、終わった後の機材が、そこに参加されたボランティアグループの方たちに残り、ずっと活動を継続できるという工夫を実現できました。デイジー録音図書の製作技術を身につけて活躍されたボランティアの皆さんが、この写真に写っているわけですね。そういう意味で、技術移転は人づくりも共にしたということです。
全国の点字図書館が100以上ありますけれども、平均すると録音図書の所蔵数はそれまでたぶん600タイトル位しかなかったと思います。それを、2,550タイトルをデイジー化して配ったので、それまでの所蔵数と比べ、一挙に4倍から5倍になったという地方図書館もあったということです。また大きな違いは、デジタル化しましたのでそれまでのカセットテープに替えてCD-ROMを使いました。CD-ROMの一枚に、一冊まるまる入るようになったということで、大変便利になったことと、ナビゲーションといいまして読みたいページに跳べる、あるいは目次を使って、音声の録音図書なのですけど、そこにポンと跳べる。そういうふうな機能もついた。機能的にとても便利になりました。
それまでのカセットテープですと、複製すると劣化していくのですね。アナログ複製ですから。アナログ録音テープというのは、だいたい50年経ったら完全に劣化して聞けなくなります。デジタル化すると1回コピーするとリフレッシュされますから、このリフレッシュを適宜続けていけば、仮想的にですが未来永劫保存できるわけです。そういう意味で長期保存の目途も立ったというのが、このときの画期的な成果であるわけです。
もうその当時から、実は録音だけではなくてマルチメディアが使えるということは、規格上分かっていたのです。当時の録音図書というのは、現在のデイジー教科書に使っているものと規格としては同じです。15年前にすでに成立していた規格ですので、同じなのです。それで2003年ごろから、ディスレクシアとか、発達障害、あるいは学習障害のお子さんたちにも、これは使えるのではないかということで、主に家族の方たちやその周辺の方たちが、細々とですけれども、先駆的に製作して提供するということが始まりました。
著作権法的にいうと、当時は視覚障害以外の人には録音図書の利用はダメ。ましてやマルチメディアというのもダメ、ということになっていました。もう他にどうしようもないということで、「マルチメディアのものが技術的には作れるので、こういうものを作りたいけれども、許可をください」と出版社にグループからお願いをしましたが、ずっと待ってもいっこうに返事がない状態でした。学校の授業は始まってしまうので、もう致し方がないということで、一冊教科書を買って・・・デイジー教科書を作るために一冊余分に買って・・・少なくとも経済的には、売れるはずのものが、売れなくなったとは言われないだろう、ということで一冊余分に買いました。そうすればたぶん文句は出ないでしょう、ということで作ったのです。
それを聞き伝えで「その教科書が欲しい」と希望してきたお子さんには、悪いけれどもう一冊教科書を買っていただいて、そのうえでデイジー教科書のコピーを提供することで対応しました。コピーを作る代わりに一冊買った教科書をどうするかですが、それはもう使わない・・・元々もらっている教科書が読めないので、それを作るために一冊余分に買っているわけです・・・それを教科書会社に返すということをやってもよいけれど、何も返事がないのでどうしょうもないということで、著作権法的にはちょっとうやむやのままやらざるを得なかったということでした。
明らかに経済的な利益の侵害ということはないわけで、むしろ余分に買っているわけですから、そういう意味では別に問題はないだろうということでしたが、いつまでもそうやってもいられないということで、文化審議会著作権分科会・法制問題小委員会で、さきほど申し上げました井上さんとか、それから当時デイジー教科書を製作し、児童に提供していた奈良デイジーの会の方などが要望書を出したり、意見陳述をしたりしました。著作権法を変えてほしいという内容です。そういった運動が実を結び、2007年10月に文化審議会著作権分科会・法制問題小委員会の「中間まとめ」が出され、著作権法を変えましょうという方向性が出されました。
ちょうどその直後、「教科書バリアフリー法」を求めるという運動が起こり、2008年9月に最初は民主党の議員立法だったのですが、その後全会派からの共同提案ということで、現在も有効な「教科書バリアフリー法」が出来たわけです。そしてここから一挙に開花しました。全国のボランティア団体が重複して製作してはもったいないし、せっかく出来上がったものを効率よく提供したいということで、日本障害者リハビリテーション協会がサーバー機能を提供し、全国の19のボランティア団体および非営利団体が、デイジー教科書製作をして220タイトルほどを提供しているわけです。
最初のうちは「有効性のエビデンスがあるのか」とよく言われました。「エビデンスがないものを使うわけにはいかない」と、文科省では最初のうちは言っていました。けっこうエビデンスの検証というのは難しくて、例えば読みが流ちょうにできたとしても、本当に意味理解ができているのかというところまで踏み込むと、なかなかエビデンスというのは得られないものです。最終的には奈良の小学校で学校ぐるみ協力していただき、試験問題をデイジー版で作り、実際に受けていただきました。普通の紙の試験問題だとあまり成績が良くない、10点とか20点とかいうお子さんが、実は試験問題をデイジー化しただけで、まったく同じ教室で同じ時間内で受けて、80点とか90点を取れる。あるいは平均点や、たまにそれ以上取れるお子さんもいらっしゃる、ということが分かりました。そういうことで、エビデンスの議論には終止符を打つことが出来ました。
現在どうなっているかといいますと、文科省の委託事業ということで、「音声教材の効率的な製作方法等に関する調査研究」の中のひとつが日本障害者リハビリテーション協会に委託され、それを通じて先ほどのボランティアグループのサーバーとか製作のためのツールとか、そういったものへの支援がされるようになりました。今年2015年はさらに大きな変化があり、文科省の教科書課による「音声教材普及推進会議」というのが始まりました。つまり文科省による普及推進事業となりまして、全国の教育委員を対象にして全国5カ所で、「こういうものがあるのでもっと活用してください」という会議をやっております。現在デイジー教科書を使っている子どもたちは、必ずしも通常の学級の子どもたちだけではなくて、特別支援学校、特別支援学級、あるいは様々な障害を持つ子どもたち、身体障害をもつお子さんを含めて使っております。
先ほどちょっと申し上げましたように、少しデイジーが実際どのようなものかということを、お知らせした方が良いかと思います。今お見せしているこれは、典型的なデイジー教科書の一ページです。国語ですね。縦書きで国語の場合は作っています。ルビがあります。ほぼ、もとの教科書と同じように見えるという作り方をしています。縦書きでルビを付けるのは、実は作るのが結構大変なのです。左側にページ数が示されています。先生が授業で「さあ何ページを開いてください」と言ったとき、そのページにポンと跳べるようになっています。
【注】スライド資料は実際に使用したものと一部を差し替えてあります。
【読み上げ】「金原瑞人訳、はたこうしろう絵・・・作品の特徴をとらえ・・・この物語にはアメリカの子どもの・・・」
こういうふうに、読み上げているところが、ハイライトされます。
【読み上げ】「資料・優しい心・村上ゆり・・・書店で・・・」
字の大きさを変えるために「リフロー」といいまして、レイアウトが自動的に調整をされます。
【読み上げ】「それがどんな内容なのか・・・重い病気にかかった友達の・・・」
あと、読みのスピードを変えられます。早くしたり、遅くしたり、両方できます。
ちょっと時間が足りなくなるので、これで実演は終わりにさせていただきます。少し補足しますと「脚注」の機能とか、「しおり」の機能とか、いろいろなところに跳んでいけるとか、もともとの紙の教科書のレイアウトが複雑な構成なのを、できるだけそれに沿って読めるようにする、などの工夫もされております。
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デイジー教科書は出来上がっているものについては、日本障害者リハビリテーション協会のウェブサイトからダウンロードできるということと、後で休憩時間に野村さん(日本障害者リハビリテーション協会)のほうからご紹介いただけると思いますが、いろんなツールがあります。このいろいろなツールが、いろんな会社から出ているというのは、非常に重要なことだと思います。つまり、ある特定のデバイスの中だけのコンテンツであると、なかなかこうふうにはいかないのですね。ウィンドウズであれアンドロイドであれiPadであれ、どれでも使えるということです。それが、オープンスタンダードの特長ですね。
障害者差別解消法によって、ここに大きな転機が出てまいります。一つの事実としては、2016年4月1日から、国公立の学校と施設は、いわゆる「合理的配慮」の提供が義務になります。必ず提供しないとそれは差別になるということです。その場合には、担当者の処分まであるような省庁もあるようですし、非常に厳格に、義務を守るというふうに制度設計をされています。
ここでもし、デイジー版教科書を使いたいという子どもが、学校に対してその意向を表明した場合に何が起こるかということです。デイジー版教科書はダウンロードすれば手に入る。それを教室で使いたい。これは誰が考えても、そんなに難しくて過度な負担、あるいは過重な負担とは考えられないだろうと思います。つまり合理的配慮として、すでにあるもの、もちろんこれは誰かが作るのですが、それを教室で使いたいという、そういう児童からの表明があった場合には、それに応えないのは差別にあたる、ということになると思います。
したがって、来年2016年4月1日からは飛躍的に利用者が増えると、私どもは予想をしています。ものすごい勢いで増えるだろうと、考えております。人口的には、通常の学級にいて、何らかの学習上の障害のある子どもたちというのが、4%から6%といわれています。実際にはもっと多いという説もあります。アメリカでは10%くらいといっています。そうすると、全国に約1,000万の小中学生がいるので、その中の4%から6%が、自分はマルチメディアの、先ほど紹介したような教科書があるのならば使ってみたいと言ってきた場合、これは数十万人という数になります。いま3,000人なのですけれども、結構これでもサーバーがきつくなっているので、何とかしなければいけない。
数十万人となったら、もうボランティアだけに依存して配れるような規模ではありません。そこで当然普通の教科書と同じように、教科用特定図書という形で、毎年9月に全国の教育委員会から文科省に必要な数とタイトルをあげていただく。すでに拡大教科書や点字教科書は、通常の学級に通っている子どものニーズに対しても、現在は国費で給与しているのです。ただし当面は紙ベースのものだけということを、数年前に決めてあるのですね。その決めたころというのは、デイジーの教科書を使っている子どもたちの数は、まだ三桁になるかどうかだったと思います。
拡大教科書を使っている子どもたちの数よりも、デイジー教科書を使っているほうが、現在ではかなり多くなっています。それなのに当面のままでいいのか。ましてや来年2016年4月1日以後も、紙だけにするというのは、どう考えても合理的でないと思われます。そうしますと、紙の教科書に全てついて、そういうニーズがあるデイジー版を作り、そしてすごい数になる子どもたちに体系的に提供する。それも、新学期の4月1日に紙の教科書を提供するのと同じように、まとめて提供する。一斉に、その学期で使うもの、あるいはその学年で使うものをまとめて提供する。こういう仕組みに移行せざるを得ないだろうと、予測をいたします。
そうなったときに、点字教科書、拡大教科書は、各地の教育委員会が、検定済み教科書と同等のものと認め、無償給与されているわけですから、先ほどご覧いただいた、元の教科書とほぼ同じように作ってあるデジタル版というのは、たぶんほとんど元の教科書と同じように使えるものという認定を受けることは可能だと思うのです。
ではそうなったときに、どうやったら無償給与できるのか。これは仮説ですけれども、小中学校に関し、いま拡大教科書は、基本的に二つのフォントの大きさのものを元の出版社が作り、全ての教科書について出版しています。ただし、価格はものすごく高いですね。一冊何万円となっているものが、多いかと思います。それと同じように考えると、そういう出版ができる会社は、デイジー版あるいはEPUB版で先ほどのような機能の教科書を提供する。それができない会社の場合には、いま製作しているボランティアグループなどが、あるいは企業がそこに参入し、代わりに作る。その代わりすべてを無償給与の対象とし、対価が支払われるという、といった仕組みが考えられるわけです。
そうなったときに、フォーマットをどうするのかということが、どうしても出てきます。先ほど申し上げましたように、ほとんどの教科書会社はEPUBで行くのだということを、将来のデジタル教科書の流れとして決めているわけですから、そのEPUBで先ほどのデイジーのデモをした内容のものは実現可能ですので、それを教科書会社が提供するというのは、十分考えられる想定です。ただしそのときに、「ここまでは決めよう」、「ここまでは満たそう」、というベースラインというものを決める必要があります。
それはちょうど、拡大教科書の場合でいうと、ある二種類のフォントの大きさを決めて、それ以上の大きいものが必要な子は、教科書会社が作るものでは足りないので、それはボランティアグループなどが作って、その対価は国自治体等が負担をするということで、やっているわけですね。それに相当するものは出てくるだろうと思います。ベースラインをまず決めて、そのベースラインを満たすものを教科書会社が作る。そういう形がたぶん望ましいのではないかと、申し上げておきます。
現在改訂中のEPUBの最新版は3.1です。これは来年10月に改定完了の予定です。そこでの目玉は、レイアウトです。日本の教科書はものすごくレイアウトが複雑です。レイアウトを保存したまま、その中にたくさんテキストブロックがあるのですけれども、それの読み順というのを必ず指定するのが、EPUBの場合の規則です。ですから、読み上げる順番はちゃんと含まれている。そのレイアウトが保存されたもので、ある部分を大きくしたい、そこを読み上げたい時には、そこを読んでいるなかで、そこのところだけポンと大きくすることができ、読み上げもできる。そして読み上げが終わると、また元のレイアウトのところへ戻り、次の所へ跳ぶというような、・・・いわば「行きつ、戻りつ」ということですね・・・ができるような、そういう仕組みである「マルティプル・レンディション」というものを新しい改訂の中で考えております。
これがきちんと決まると、どういうふうにそれを実際に作るのかという、次の作業に入るのですが、できればそのサンプルを、改訂作業を進めている間にも出せたらいいなと考えているところです。いずれにせよここまでは、各社共通で出しましょう、というベースラインというものを、ユーザーも開発者も、特にプレーヤー、それから制作ツールなどの開発者も参加して、ベースラインを作り、その決めたものを出版社は提供し、さらにもっと工夫しなければいけないものについては研究開発を進めて、そういったニーズにも対応していく。
3,000人が使っているデイジーのユーザーからは、いろいろな知見が得られています。それをベースにEPUBの中にきちんと織り込んで、EPUBの中でのベースラインというのを決めて、より組織的に取り組む。日本では最初は教科用特定図書、つまりいわゆるデジタル教科書という皆が使う教科書ではなく、障害のある子どもたちが使う、そのためのデジタル版の教科書だけれども、実はその先には、それがEPUBであるが故に、すべての子どもが使うデジタル教科書がアクセシブルになっていく、そこにシームレスにつないでいくといった開発の方向性が見えてきたと思います。
それの非常に大きなポイントが、いま改訂中のEPUB 3.1に含まれると申し上げておきます。この3.1の内容については、来年2016年2月5日に日本デイジーコンソーシアム主催で、東京の日本障害者リハビリテーション協会の戸山サンライズという所で、講演会を予定しております。それから11月には、国際デイジーコンソーシアムの理事会を、日本で開催することになりましたので、ちょうど10月に規格改定が終わり、世界中のデイジーとEPUBを使ってアクセシビリティを開発している、主要な団体のリーダーたちがやって参りますので、そのときに交流とか、研究開発にむけた、そういうイベントを開催していきたいと考えております。
以上が、私のほうからのお話です。すいません時間ちょっとはみ出しまして、あとで質疑応答のところで、また参加させていただきたいと思います。どうも、ご清聴ありがとうございました。
【会場拍手】
質問 : EPUBの点字対応、ピンディスプレイへの出力対応はどうなっているか。
回答(河村氏) : 基本的にEPUBやDAISYの仕様では点字対応しているが、プレーヤー側の仕様に依存する。DAISYではすでに点字対応のプレーヤーを使うことで、ピンディスプレイ出力が可能。ただし分数式の「読み方」と同様な課題が残る。MathMLに対応しているのでそれで書いてあれば出力できるが、現実的には数式を日本語方式の点字表記にする際の課題がいくつか残る。
補足(会場より) : 日本語の文章は数式にかぎらず、そのまま自動点訳しただけでは使えるものになりにくい。DAISYやEPUBメディアオーバレイにおいて肉声とテキストがシンクロできるように、読みと同期させて正しい点字データを出力できるような仕組みはまだない。今後の課題だと思う。
質問 : 大学教育では、一般図書や論文、外国語文献など教材や読むべきものの範囲が格段に広がる。これらのアクセシビリティ確保の取り組みの動向について、情報があれば教えてほしい。
回答(河村氏) : 結論としてはいわゆる「発生源対策」が根本的な解決策である。長期的にはEPUBにより出版元でアクセシビリティを確保していく。すでに紙で出版されたものについては、大学図書館などでの選書による計画的な電子化でアクセシビリティを確保していくべき。米国での"Book Share"などの先行事例にならい、日本でも国家戦略として取り組むべき課題である。さらに長期的にはマラケシュ条約による著作権の権利制限などによって、国際的なアクセシブルな出版物の流通が促進されることに期待していきたい。
河村・近藤両氏の当日のプレゼン資料を、許諾を得て下記に公開いたしました。